クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.37
アート
2018.07.13

伝統をベースに新たな表現を追求する若きクリエイター それを支える京都のギャラリー

京都をベースに新たな文化創造に取り組むグランマーブルでは、若いクリエイターを中心に多様な作品を発信する場として「Gallery PARC」を運営している。京都におけるGallery PARCが担う役割や展示される作品について、Gallery PARCディレクターの正木氏に話を伺った。

※グランマーブル:京都のデニッシュ専門店
Gallery PARCが発信するもの
多くのギャラリーがある京都という場所において、Gallery PARCの役割とは何か。
正木氏「京都の一企業であるグランマーブルがメセナとしてギャラリーをつくるということはすごく大きな意義があると思います。もしプライベートギャラリーやコマーシャルギャラリーとしてやるなら、売れるもの、経済をどうつくるかが主眼にならざるを得ないところがありますが、有難いことにGallery PARCの場合は、そこに対し少し余裕が取れる。そのため、表現としてまだ不確かなものをクリエイターと一緒に手を携えて押し上げていく時間がとれるというのは大きな役割だと思います」
ギャラリーで展示される作品はどのように選定しているのか。
正木氏「絵画や彫刻、仏画や映像、ダンスやパフォーマンスもある。
ジャンルはなるべく広く、かつ、多くの来場者の方に自身の興味や問題に置き換えてくれるような作品を選定しています。こんな作品やこんな分野があるんだと知ってもらうと同時に、作家の視点や考え方、発想を受けて、自分だったらどのように考え発想するかという風に受けとってもらえたらいいなと思います」

『internal works:境界の渉り/むらたちひろ展』
Gallery PARC で2018年6月15日から開催されるのが、『internal works:境界の渉り/むらたちひろ展』だ。染色による表現に取り組む美術作家、むらたちひろは、大学で基本的な染織・染色の技法を身につけた後、型染めやろうけつ染などの伝統的な染色技法をベースとした作品制作に取り組んできた。その作品は染料と生地の「染める/染まる」に現れる滲みや揺らぎの魅力を存分に引き出したもので、染色の持つ特性と自身の感性を重ねたイメージを描き出している。
正木氏「近年に“むらた”は、『染色』に端を発した様々な表現に取り組んでいます。染めた布にさらに水を与える手法や、デジタル写真をもとにしたイメージをインクジェットプリントした布に裏面から水を与えることで、イメージが断片的に沁みあがってくる作品には、日々移り変わる私たちの心象風景や記憶の曖昧さが重ねられます。ひとつの色がたくさんの色素に分離される様子を取り込んだ作品では、ひとつとして見ている世界が多様な要素で構成されていることに気づかされ、何気ない美しさの中に、現在の社会を取り巻く諸相を見ることも出来ます。このように、現在の自身の興味や好奇心への探求の術に、染色の技法や思考を取り入れた作品を展開させているのが“むらた”の特徴です。展覧会では、今回の『境界』というテーマや『染める/染まる』への多様なアプローチとともに、伝統的な染色が今も新鮮な表現媒体として魅力的であることなどを知ってもらえるのではないでしょうか」

編集部の視点
京都で染色というと、伝統的な着物などのイメージが強いだろう。古き良き歴史という強みがある反面、それに引っ張られずにどのように新しい表現を生み出すか。これは京都で活動する作家の大きなひとつの課題でもあるという。多くの若きクリエイターが試行錯誤する中で、それを支えるGallery PARCのような場所が今後求められるのだろう。

『nothing』
綿布 ・ 染色 ・ 木枠 
1000×1500×100mm / 2017年
撮影:守屋友樹

「窓越しの水平線」を眺めるとき、
窓、海、空、光、境界、何を見つめているのかわからなくなる。
二色の染料は、それぞれ布の端から放たれて中央に向かってにじんでゆく。
その境界を水平線に見立てて窓枠に挟み込んだ。
ここにあるのは両面から見える '水平線'。
こちらにもあちらにも見えて、手の届かない所に在る。

『Internal works #01』
綿布にインクジェットプリント・染料・水・木製パネル 
455×606mm / 2017年
撮影:麥生田兵吾

布の裏面に染料で写真をプリントし、
表面から水を与えると色が浸透して像が浮かび上がる。 
かすんで見えていた像は水を介して鮮やかに発色するが、
数秒後には滲みが広がり溶けるように崩れていく。
「たしかに在るけれどもふれることができない」現れては消える断片的な記憶、
使い込まれた物や部屋に宿る気配。
色を直接染めるのではなく、イメージを遠ざけるプロセスを挟み込むことで、
「染める・染まる」現象と行為の新たな側面を抽出することを試みた。