Vol.41
特集
2018.11.15
03 「MaaS(Mobility as a Service)」がもたらす世界の価値観
ビジネスタイムライン編集長 /倉本 麻衣
From the Editor in Chief
今号では、ミレニアル世代の新進アーティストの一人であるiri に着目した。彼女から、「自分自身で見て聴いてリアルに体験することで生み出される価値は唯一のものになる」というクリエイションヒントを得られただろう。24時間いつでも誰でもインターネットに接続できることで手軽に情報が手に入る時代、多くの人がリアルな体験をしていなかったとしても、様々なことを知った気になってしまう。そこで、体験という価値を時代背景とともに考察したい。
成長著しい配車サービス、カーシェア、シェアパーキング、シャエアリング特化型物流など、それらのサービスは「MaaS」と言われている。MaaSは、Mobility as a Serviceの略で、動きやすさや移動性の利点を生かし、体験設計によって新しい価値を生み出すことである。これまでの物の所有感や、それによるステータス感などの価値観は、時代の変化とともに必要な時に必要なものがあれば良いという価値観へ変わってきた。総称して「物が売れない時代」とも言われているところがあるが、決してそうではなく、バブル崩壊後の1990年以降に生まれているミレニアル世代は、バブル崩壊後の時代が普通で、且つ大きな災害が続いていることもあり、コストパフォーマンスへの意識が高い。デフレも影響してか、低価格ながらそこそこのものを手に入れたり食べたりすることができることで一定の満足感を得られる。そのような中でもあらゆる企業は、商品やプロダクトをマーケティングしようと形や色を変えたりサービスを変えてみたりして力を注ぐが、その割に消費者が反応しないのは、既に取り巻く環境が変わっていて購入する強い理由がそこにないから。このような中でMaaSの概念では、人が動く目的や関係性、人の流れによってテクノロジーが最適化してくれるようになる。今後、体験無くして「知っている」と思い込んでいる既視感、「安かろうまぁまぁ良かろう」というコストパフォーマンスの感覚を理解した上で、コストに似合った価値提供を行うことが、より問われるようになる。商品やプロダクトそのものの改善以前に、それらを取り巻く環境に対しての問題提起が必要で、そこに切り込めることがイノベーションに繋がるのではないか。それには真の意味での「体験」とは何かが鍵になる。すなわち、人々の用途の数によってその分の体験があるということでもある。
2020年以降、職場の半数がミレニアル世代をむかえる頃には、ライフサイクルのあり方からあらゆるビジネスモデルが大きく変わっていくだろう。