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2015.08.28 | 和紙の新たな創造。革新から始まる伝統とは

和紙の新たな創造。革新から始まる伝統とは

1500年の歴史を繋ぐ和紙の世界。2014年11月に「ユネスコ無形文化遺産」として登録され世界からも注目されている「手漉き和紙」。そんな日本の伝統文化の世界へ、1人の元銀行員が飛び込んだ。それが現在、和紙アーティストとして活躍する堀木エリ子。彼女は、「人間はみんなクリエイター」と語る。それは、「出来ない」を捨て、「出来る」という意思から生まれる作品にヒントが隠されている。今回は、ジャンヌ・ダルクの精神にも似た彼女から出てくる言霊に肉薄した。




ヒトが創りだす7割の作為、偶然が創りだす3割の自然が融合する和紙とは?



手漉き和紙との出会い

高校卒業後、住友銀行へ入社、4年間の銀行員生活を経て、和紙の商品開発会社で経理事務を担当。22歳の時に福井県にある紙漉き工房へ行った際、目にした和紙職人の姿に魅了される。その後、勤め先が閉鎖することになるが、「職人さんの手漉きの姿と、その尊い営みを途切れさせてはいけない」という思いがきっかけとなり、和紙の会社を立ち上げる。しかし、彼女の体を悪性のガンが襲う。死への覚悟とともに遺書を書くが、予想以上にやるべきことが多く、「とても死ねない」と気づく。そして、全身麻酔の手術4日後に仕事に復帰し、医師を驚かせた。その後、現代の建築空間に合わせた最適な和紙への制作に取組み、立ちふさがる数々の難題をクリアしてきた。現在53歳の彼女は、「まだまだやることがいっぱいあります」と笑顔たっぷりで和紙の魅力を語ってくれた。


革新から始まる伝統への想いを紡ぐ

堀木さんの作品には、「東京MIDTOWNガレリア」、「パシフィコ横浜」、「成田国際空港第一ターミナル到着ロビー」など、とてもダイナミックで革新的なアートワークが多い。和紙には機械漉きと手漉きがあり、レターセットなど消耗品に使われることが多いのが機械漉きで、価格も安く使いやすいが退化も早い。「私が作る和紙は、畳3畳分ほどの大きさで、1枚を10名で作っていきます。普通の和紙は、1〜2層で出来ていますが、私が作る場合は7層まで重ねることがあります。今までの手漉き和紙ではなかった手法も使います。」手漉き和紙は手間暇をかけていることもあり、高価だが、退化しにくく簡単に破れない。コストをかけるところとそうでないところのバランスを取ることはとても大事だ。我々は常に、どちらかの選択を迫られている。大きな空間では丈夫な和紙が求められるからこそ、手間暇かけてダイナミック且つ退化しにくい手漉き和紙が必要となる。現代空間に合うための革新がそこにはあり、1つの壮大なブランディングへと繋がる。


「出来ない」という選択肢を捨てる

和紙を重ねていく工程で、いくつもの気泡が発生し、そのまま乾燥させると気泡が弾けてきれいな柄にならない。「10人がかりで、1つひとつストローで気泡を吸い取り繰り返すこと7回分。この手間暇をかけることでクオリティの高い仕上がりを見せてくれます。」何故、手間暇をかける必要があるのか?を理解しているからこそ出来る技だ。堀木さんは、強烈な完成イメージがあり、実現に向けてのやるべきこと、そこには試練が伴うということを分かっているように思えた。人間は「成功回避」が働くことがある。特に初めての試みなど、失敗したときに傷つくことを軽減しようとする行動を取ってしまう。「出来ないという選択肢を捨てることで、出来る前提でしか考えなくなります。」何かを実現するために、強い決意をすることはとても重要なことなのかもしれない。


偶然のクリエイティブ

和紙には2つの魅力がある。その1つは、偶然が与えてくれるクリエイションだと堀木さんは、語る。「和紙には制作の工程で生まれる偶然があります。大体3割くらいの偶然性、つまり意図しない事が起きた時に、とても良い作品が出来上がります。」制作に携わる人々の息を合わせるタイミングの違いや、水の状態、季節ごとの繊維の状態といったさまざまな偶然が重り、意図しない部分が出てくる。「努力しテクニカルを生かした部分と偶然のバランスが上手く取れたときに、素晴らしい作品が出来上がります。そして、劣化とは違う、時間の経過や光の変化による移ろう変化を愉しんでいただけるのも和紙の魅力の一つです。」

 ※たわしを使って水滴を投げつけ柄を入れた和紙

まだ知らない「和紙」ブランディングについて

白い紙は神に通ずる。白い紙は不浄なものを浄化するという精神性があり、祝儀袋など私たちは白い紙で包む文化を持っている。その精神性を根底にして和紙を現代に生かすために、柄を入れたり、大きな空間で生かすための工夫を施したりした。「和紙を、商業的な扱いから一般生活へ浸透させることで、手漉き和紙の背景にある精神性が拡がり、のちに伝統に繋がるものと思っています。」今まで、toBへのブランディングが強い印象だった堀木さんの手漉き和紙、ここからはtoCへの和紙ブランディングが必要となる。次世代へ繋げるために、どんなブランディングが出来上がるのか。新たな闘いはまだ始まったばかりだ。




【BTL編集部考察】
 1500年続く手漉き和紙を、「平成」という時代に合ったダイナミックな世界観で革新する。様々な苦難も「失敗」ではなく、実現するための過程と捉える。更に手漉き和紙を次世代へ継承するには、一般の生活に入り込んでいくことが大切。toCへの新たなブランディングは、様々な手法で実現されていくだろう。

堀木 エリ子

堀木 エリ子

「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、2700×2100mmを基本サイズとしたオリジナル和紙を制作。和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
近年の作品は「東京ミッドタウンガレリア」「パシフィコ横浜」「在日フランス大使館 大使公邸」「成田国際空港第一ターミナル到着ロビー」のアートワークの他、N.Y.カーネギーホールでの「YO-YO MAチェロコンサート」の舞台美術等。著書に「和紙の光景̶堀木エリ子とSHIMUSのインテリアワークス」(日経BP社)、「ERIKO HORIKI -Washi in Architecture-」(スペイン、トリアングラ・プスタルス社)、 「和紙のある空間 - 堀木エリ子作品集」(株式会社エー・アンド・ユー)、「ソリストの思考術〜堀木エリ子の生きる力」(株式会社六耀社)がある。