SHARE

2016.02.09 | 人間力

「売り方をデザイン」出来る人間力とは


編集長/倉本 麻衣

今回、小松美羽という一人の現代アーティストに触れて、「感じることの大切さ」「他者とコミュニケーションを図ることの大切さ」「自分の頭で考えぬく大切さ」、そしてそこから得られる「人の心が動く瞬間」を目の当たりにしたように思う。

日本は、古くから伝わる伝統的工芸品が多く存在する。以前、BTL TOKYO Vol.3でも特集した「越前和紙」もしかり、漆器や盆栽、木工品、包丁、陶磁器など、経済産業省が指定する伝統的工芸品は222品目(※1)にのぼる。伝統的工芸品として指定されるためには、日常生活の中で使われているものであることや伝統的技術や技法、天然の原材料の使用、産地が形成されているなどいくつかの項目をクリアする必要があり、「モノづくり日本」と呼ばれるにふさわしいその礎は、まさに伝統的工芸品をもって説明することが出来るだろう。今年、創業400周年を迎えた有田焼も佐賀県で初めて創られ、代々受け継がれてきた職人たちの技術によって今まで途絶えることなく守ってくることが出来た。しかし、400年経過する中で、有田焼が売れていた全盛期と比べると売上は数分の一までに落ち込んでいる。それでも、職人たちはその技術を必死な想いで守ろうとする。

では、何故、有田焼が全盛期に比べて売れなくなってしまったのか。その理由は「生活様式の変化」が大きいと言われている。衣服の変化(着物から洋服へ)、食卓の変化(正座からテーブルとイスへ)、食べ物の変化(洋食メニューの嗜好化)と大きく3つが変化したことによって、古くから受け継がれてきた器そのものが、現代の食卓スタイルに合わなくなってしまったのだ。更に、海外から格安で入って来る洋食器などに需要を奪われてしまった理由もある。生活様式の変化とともに、その食卓スタイルに合った器を創る必要があったのかもしれないが、それは、それまで受け継がれてきた伝統を崩す必要が出てくる為、その一歩を踏み出すのは難しかったのだろう。

しかし、昔からの概念を覆して有田焼の復活の狼煙を上げた人物達もいる。有田焼業界でいち早く「フレンチ」「イタリアン」など、洋食向けに合った器デザインを創り展開した照右ェ門窯 株式会社カマチ陶舗の蒲池勝氏。フランス・パリの高級ホテル「ホテル・ドゥ・クリヨン」で蒲池氏が提案した有田焼の器が採用されたことで話題となる。また、7代目当主 松本弥左ヱ門が立ち上げたブランド「ARITA PORCELAIN LAB」では、洋食の盛り付けにも合う器を創り、ネット販売の他、都内大手百貨店で食卓シーンを想起出来る売り場作りの取り組みをしたことで、顧客獲得の場を広げている。

昨年、小松氏が制作した有田焼の狛犬が大英博物館に展示されたのは、「有田焼・狛犬」という理由だけではないように思う。元々、世界最高峰のガーデニングショー「英国チェルシーフラワーショー」で7回目の金メダルを受賞した庭園デザイナー、石原和幸氏から「僕の庭には神がいる。あなたの狛犬にも神がいる」と口説かれたことがきっかけで小松氏曰く「神獣(しんじゅう)」という狛犬が出来上がった。小松氏の内面的魅力が石原氏を惹きつけたように、他に類のない狛犬へと小松氏の心が投影されることとなった。結果的に狛犬は、多くの人の心を惹き付け、大英博物館に展示されるに相応しい評価を得た。大英博物館へ訪れる世界中の人たちの目に触れ、すばらしさに共感し記憶に残る。一方、日本の百貨店では、現代の食卓スタイルに合う器として蘇った有田焼を外国人観光客が手に取るシーンが増えている。狛犬は、まさに有田焼の広報的存在、大使の役目を果たしているのかもしれない。

小松氏は、感じたことを天性のセンスを持ってクリエイションし、人々に驚きと感動を与える。アートを通して様々な人々とコミュニケーションを図ることでお互いの気づきへと変化させ、結果的に多くの人に受け入れられる作品が完成する。まさに「売り方をデザイン」出来る人間力があるのだろう。小松氏が生み出す作品を通して、「人々を巻き込む人間力を鍛えることがマーケティング力である」と言っても過言ではないことを証明してくれているように思う。

(※1)経済産業相が指定する都道府県別伝統的工芸指定品目一覧参照 http://www.tohoku.meti.go.jp/s_cyusyo/densan-ver3/html/pdf/150618.pdf

小松氏がほんの数十分で描いた貴重なサイン



■ BTL TOKYOの誌面はこちらから (無料定期購読) →http://www.nexgate.jp/order_inquiry

小松 美羽

小松 美羽

現代アーティスト。1984年生まれ。長野県出身。女子美術大学短期大学部卒業。
出版物:小松美羽−20代の軌跡−2004〜2014、銅版画、ペイント、墨絵、ペン画、有田焼とのコラボレーションなどの代表作108点を収録。過去・現在・未來まですべてを綴ったインタビューなど、小松美羽のすべてがここに。