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2016.07.27 | (歌舞伎 × テクノロジー)+市川染五郎「伝統とは時代を超えた革新力にあり」

時間と国境を越えて 実現した歌舞伎の舞台裏


右:パナソニック株式会社 事業戦略 チーフエンジニア 齋藤氏 / 左:パナソニック映像株式会社 プロデューサー 秋山氏


Wonder推進室の2020年に向けた構想

歌舞伎舞台では、昔から「客いじり」という演出が存在する。その演出において、先端テクノロジーでの融合を提案し、2016年5月ラスベガス公演にて実現させたのがパナソニックWonder推進室であった。今回の取組みにおける黒幕のパナソニックWonder推進室とはどのようなことを行っている組織なのか、齋藤氏にコンセプトを聞いた。

齋藤氏「Wonder推進室では、2020年に開催される東京オリンピック、パラリンピックなどを見据えて企業として今までやったことのないワクワクすること、パナソニックが持つ技術、商材、他企業とのコラボレーションなどを積極的に行い発信していこうをコンセプトで動いています。今回の取組みは、パナソニックが持つ3Dフォトラボの技術を用いた方向で実施に至りました」

3Dフォトラボは、360度からの撮影を行い、撮影したイメージを組み合わせることで3D化することが可能。グランフロント大阪のパナソニックスペースでは3Dフォトラボの体験ができるシステムが揃っている。では、なぜこの3Dフォトラボをラスベガス公演で使うことになったのか。

齋藤氏「私たちの生活の中でカメラを使うシーンというのは、この数年で確実に増えていると思います。それはスマホも含めて。しかし、その流れの中においても本格的なカメラを使うシーンというのは逆に減っていると思うのです。そんなことを思いながら、カメラの技術を最大限活かせないものか考えていました。そんな中、3D化されたイメージをフィギュア化するのではなくデータとして利用できると思い、更にアニメーションにすることによって何かに使えるのではとWonder推進へ話しました。その時、ゴールデンウィークに向けて歌舞伎のラスベガス公演が決まっていたので、そこでの歌舞伎との融合に関する案が出ました」


客も歌舞伎踊りをする演出

歌舞伎はライブである為、リアルタイムの演出において穴を空けることは許されない。その状況下、どのような試みがなされたのか映像担当の秋山氏が振り返る。

秋山氏「歌舞伎にある“客いじり”という演出の一つとして、テクノロジーを使って舞台上で表現をする今回の試みは、演出部分に触れることになりますので、脚本家の方と台本作りのところから、どのように組み込めるか議論しました。お客様をステージに上げる方法は色々あります。例えば、客席を写して舞台上のスクリーンへ出すことや、3Dホログラムを使ってステージに立っているようにするなど。議論の結果、客席の人が歌舞伎踊りをするリアルなアニメーションを舞台上に映像として投影する(※1:P5 )というものでした」


事前トライアルで見えた「時間」との闘い

初めての試み且つ、ライブである舞台というシチュエーションにおいて、成功イメージをどのように描いていったのか。

秋山氏「2月にワンダージャパンソリューション(パナソニックの業界向け展示会)を実施したのですが、その時にどれぐらい実現性があるかどうか検証を行いました。その際、撮影からスクリーンでのアニメーション映像出しまで数日かかりましたが、この数日かかっているものを24時間以内に回せれば本番に出せるという確信を持ちました。そこからは、どれだけ24時間以内に詰められるか? という模索が始まりました」


世界一周して完成型になるアニメーション

そして24時間以内にアニメーションを完成させるために、社外のソリューションに協力を仰ぐことになる。

齋藤氏「DOOB社のボスニア・ヘルツェゴビナには若手のクリエーターが多く在籍しており、24時間体制でシフトが組まれ、2Dフォトから3D化する自動変換とレタッチ作業をしていることがわかりました。実際に現地へ見に行ったのですが、テクニカル面で課題にあった24時間以内で実現可能なアニメーション化の全体ワークフローが見えました。今回、社外を超えて色々な企業のクリエーターが関わって舞台演出に繋げることができました。データが完成されるまでに24時間の中で世界一周していています。それはまさに、世界一周プロジェクトになっているのです」




歌舞伎は思っていた以上に「革新的」だった

舞台公演成功に向けての緻密な調整をしたことで、ラスベガス公演は大盛況だったが、歌舞伎という日本の伝統芸能にテクノロジーを融合させる上で、どのあたりが大変だったか。

齋藤氏「最初、歌舞伎に対してデジタルフォトテクノロジーを取り込むのは違和感がありました。しかし、松竹の岡崎常務から、『歌舞伎とは400年の歴史の中で常に最先端の試みをしてきた』というお話を伺いました。例えば、まわり舞台、衣裳の早替りなど。舞台は回転しないという固定概念を一番に覆し、回すことによって舞台シーンが変わるという演出を試みたのは歌舞伎なんだそうです。そして、伝統と継承は違うもので、大切なコアな部分がありつつ新しいものを取り込んだことで革新的であるからこそ伝統になれる。というのを伺い、それはすごく感銘を受けました」


「諦めなかった」ことによるプロジェクトの成功

1社のみではなく複数の企業と、そして多くのクリエーターが参加したことで成功することができた今回のプロジェクトについて、昔からある日本の「縦割り」社会の壁を超えて実現に導く難しさについて秋山氏はこう語る。

秋山氏「もちろんテクニカル面で超えなければ行けない壁はいくつかあったのですが、一番難しかったのは、技術的というよりも、様々な文化を持った会社やクリエーターが集まっていること、更に海外も巻き込んだ形になっているので、コミュニケーションの往復に時間がかかること、また言葉の微妙なニュアンスの受け取り方の違いなど。それら調整の局面において困難が多かったと思います。ただ、複雑なプロジェクトながら、得意分野の武器を持った人が集まったからこそ実現できたプロジェクトだと思っています。全員がプロ意識を持って諦めなかったことが大きかったのだと思います」




人の「死生観」すら変わるかもしれない

BTL TOKYO VOL.10で3DCGの特集を行った際、フォトグラメトリーの普及によってCG業界は大きく変わるだろうと予測をした。改めて、3DCGの世界はどう変わるか、齋藤氏が未来感を語ってくれた。

齋藤氏「私的には、これからおかしなことが起こるように感じてます。例えば、Facebookは多くの方が自分で所有していると思うのですが、死んだらどうなるのかなって考えるんですよね。何が言いたいかというと、自分のプロファイルが写真とともにデータとして残るのです。それは昔と違ってリアルな人の形がデジタルで残る時代になります。昨今のAI進化によって、その自分データはしゃべり出すかもしれないし、仏壇の前に座ると、ご先祖様がしゃべり出すのではないかすら思います。仮想空間に生き続けるということは、死なないということで、永久にアバターとして学習し続けることが出来ます。それらは、人間の死生観すら変わるかもしれないなと思うのです」


「アバター」の語源を理解して見えてくること

アバター(avatar)は、元々サンスクリット語で「アバタール」と言う。それは、神様が天井から降りてきて、神様のインテリジェンスが人の形になったといわれており、とてもスピリッツ性が高い。神様の定義とされている「アバター」の語源は、齋藤氏が話す「人の死生観」と実は非常に近い存在の名称なのかもしれない。新しい思想が出来そうな予測は、この数年の技術進化が激しいということからも繋がる。


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VERBAL

VERBAL

Music Producer, MC, DJ (m-flo, TERIYAKI BOYZ®, PKCZ®)Creative Director (AMBUSH®)m-floでの活動の他、超豪華ラップグループ TERIYAKI BOYZ® 、新たにスタートしたクリエイティブユニット PKCZ® のメンバーとしても知られ、独自のコネクションを活かし数多くのアーティストとコラボレーション。 Pharrell、Kanye West、AFROJACK など海外のアーティストとも交流が深い。近年はDJとしても飛躍を遂げ、そのスタイルはファッション界からの注目も熱い。デザイナーのYOONと共に2008年にスタートしたアクセサリーブランド “AMBUSH®” ではクリエイティブディレクションを手掛け、これまでに Louis Vuitton(Kim Jones)、SACAI、A Bathing Ape® など、錚々たるブランドともコラボレーション作品を発表している。


左:松竹株式会社 取締役副社長 細田氏/右:松竹株式会社 常務取締役 岡崎氏

左:松竹株式会社 取締役副社長 細田氏/右:松竹株式会社 常務取締役 岡崎氏