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2017.03.15 | 野村萬斎から学ぶイノベーション力

#04_野村萬斎の「ミニマム」思考を 舞台美術のキーマンが語る

舞台制作で欠かせない存在である舞台美術デザイナーの松井るみ。長年、萬斎と共に舞台づくりをしている中で、世田谷パブリックシアターという劇場から新しい観客を得るための文化を生み出している。同劇場から円心を描く ように世界を拡げるため、機動力を持たせた舞台演出を「ミニマム」思考でイノベーションする萬斎について更に深く掘り下げる。


『マクベス』初演時の舞台美術 撮影:石川純


舞台美術家から見た「野村萬斎」の舞台づくり

萬斎は能舞台における伝統芸能を大切にしながらも、自ら演出・出演しているシェイクスピアの舞台作品『マクベス』がある。萬斎のこの作品は、日本のみならず海外でも上演され海外の観客をも魅了する。しかし、日本国内のみで上演する場合と異なり、海外で移動しながら上演するには機動力を持たせる必要があった。再演時に海外で上演するために行った「萬斎流の引き算」を松井るみが答えてくれた。
松井るみ「基本的に萬斎さんの中には常に『宇宙観』というのがあるので、それをどう表現するかがいつもどの作品でもテーマになるんですね。最初の『マクベス』の時は地球を作ろうとか、ちょっとこれは原爆ドームにも見えるし、みたいな形を手探りでやっていました。ドームの上に惑星型の魔女鍋があって、その中にトカゲや色んなものを入れて、それを飲むと違う空間に行けるというような表現を初演ではやっていたんです」

萬斎が持っているイメージはどのようにしてスタッフと共有されているのか。その「宇宙観」をアウトプットするために試行錯誤もあったようだ。
松井るみ「以前『マクベス』のパンフレットにも使ったことがあるんですが、『これが実は僕のイメージなんだ』と言って萬斎さんが描かれた絵を持ってこられた時がありました。宇宙観をベースに舞台がここで、橋掛り(※2)がここでというようなイメージの伝え方をされますね。以前、萬斎さんにも言ったことがあるんですが、一般的な現代演劇育ちの演出家だとステップアップという形で構築していく形を取ります。しかし萬斎さんの場合はステップ1から4へ突然進んで、そして一旦戻って2、3と組み立てていくような方だなと思います。時々、周りが取り残されることがあるほど(笑)」
そのように語られている萬斎が、実際どんな会議をしているのか制作会議を覗かせてもらったところ「こんなイメージで考えている」と自ら本を持ってスタッフとイメージの擦り合わせをしているのが印象的であった。

(※1)ハムレット・オセロー・リア王と並ぶシェイクスピアの四大悲劇の一つ。
(※2)能舞台の左手後方にある、欄干(らんかん)のある通路。演者の登退場等に用いる。


イメージの擦りあわせを行う制作会議の1コマ


『マクベス』を日本の「風呂敷の知恵」で魅せる

一般的な再演は、初演とはあまり変わらずに上演されることが多いが、萬斎は「解体して再構築」の精神で新しい『マクベス』を創りあげる。更に、海外でも機動力を上げるために萬斎が取った行動とは。
松井るみ「萬斎さんが非常に得意としている『ミニマムの表現で本質を見せる』ということが、『マクベス』の再演を考えるところで出されたと思いました。立体物だと物量があるため機動力が落ちるということで、そこからそぎ落とし作業に入るんです。『マクベス』の演出で外せないバーナムの森(※3)は、通常は立体で作りますが自由自在に動く布の利点を活かして下から上に釣り上げました。その際、木が近づいてくるように立体的に見えるように動かす。あと、矢羽が向こうからマクベスに飛んでくるシーンの時(※4)に実際の矢羽だと危険なのでたくさん飛ばせない。そこで敷いてあった布を裏返しながら引きはがすことで矢羽が飛んでくるように見せています」
何枚かの風呂敷で表現すると同時に、風呂敷の中に小道具を全部詰め旅に出るというコンセプトだそうだ。松井るみは「旅一座みたいなのは理想」と話した。日本に昔ながらある「風呂敷の知恵」が活かされていることは、日本文化の本質を大切にしながら表現された一つのクリエイション例である。






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野村萬斎

野村萬斎

狂言師。1966年、東京都生まれ。狂言師。人間国宝・野村万作の長男。重要無形文化財総合指定者。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督を務める。国内外の能・狂言公演や舞台・映画出演はもとより、世田谷パブリックシアターでは『まちがいの狂言』など狂言の技法を駆使した舞台や、『国盗人』(「リチャード三世」を翻案)など古典芸能と現代劇の融合を図った舞台を次々と手掛ける。芸術監督就任後初の構成・演出作『敦 ―山月記・名人伝―』では朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。構成・演出・出演を務めた『マクベス』は全国各地で上演を重ねるほか、海外公演(ソウル、ニューヨーク、シビウ、パリ)も果たした。

松井るみ

松井るみ

舞台美術デザイナー。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。劇団四季を経てロンドンへ留学。帰国後、舞台美術家としての活動を開始。2004年『Pacific Overtures』(宮本亜門演出)でブロードウェイデビューし、同作品デザインで第59回トニー賞にノミネート。2007年にはOISTATより“世界の最も名誉ある舞台デザイナー12人”に選出。タン・ドゥン作曲『TEA: A Mirror of Soul』(宮本亜門演出)ではオペラ界においてもアメリカ進出をはたす。さらに、2010年6月には『The Fantasticks』(宮本亜門演出)でロンドンのウェストエンドデビューを飾った。 近年は、上海公演や、AKB48の5大ドームツアー、国立競技場公演のセットデザインを手掛けるなど、活動の幅を広げている。これまでに参加した作品は400以上にのぼり、紀伊國屋演劇賞個人賞、第8回・第19回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞,伊藤熹朔賞、菊田一夫演劇賞他、受賞多数。2015年より東京藝術大学の非常勤講師を勤める。