クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.35
アート
2018.05.14

人の心を揺さぶるものは日常の中にある

『Noises, Crowds, and Silent Airs』展示場所:カフェ&シャンパーニュ 祇園ちから

一見、美しい景色が映し出された映像のように見える作品。映像が終わり明るくなると、キャンバスには鉛筆による精密な風景画が描かれているのがわかる。これは、現代美術家ヤマガミユキヒロが手がける「キャンバス・プロジェクション」による作品。モノクロの風景画に同一地点から撮影した映像をプロジェクターで投影し、キャンバス上で重ね合わせるという独自の手法で制作された作品だ。ずっと見ていたくなるほど、穏やかで美しいこの作品はどのように生み出されているのか。ヤマガミ氏に話を伺った。



継続することで見えてきた新たな表現
光、時間、空間をどのようにして描くか。これは、長い絵画の歴史の中でも、いまだ乗り越えられていない問題ではないかとヤマガミ氏は言う。一枚の絵でそれを表現できないか。試行錯誤の中、映像なら光そのものや、時間の流れも表現できるのではないかと行き着く。
ヤマガミ氏「大学生の頃に友達のポートレートを描いていたんです。人間の動きを表現したくて、椅子を一脚置いて、友達に休憩するときはここに座って、ポージングはせずに自由に過ごして欲しいとお願いしました。A君が座る姿を描き、いなくなったら消して椅子だけ描く。次にB君が座ったら椅子を消してB君を描く。それを毎日半年間描いたんですが、最終的には椅子になるんですよ。でも僕は椅子が描きたいわけではなくて、ちょっと前にいたA君の痕跡を描きたかった。その時、大学にあったプロジェクターで椅子の絵に人が動く映像を投影してみたんです。そこでやっと、自分が表現したい形がみえてきたんです」

更新されていく作品
一つの作品が完成するまでに半年〜1年はかかるという。それは春夏秋冬、朝昼晩、現場でずっとカメラを回すことと、絵を描くことを並行して進めていくからだ。その場所の一番良い景色を映すために、何度も現場に足を運ぶ。そのため、絵で捉えられるスピードと映像で捉えられるスピードに時間差がでてくる。描き始めた時は何もなかった所にビルが立っていたりすることもある。逆にいうと、3年前に描いた絵に昨日撮った映像をのせることができるのもこの作品ならではだろう。ヤマガミ氏の作品は更新されていくのだ。


海外からみた日本のイメージ
オーストラリアのビクトリア国立美術館に収蔵されているのが、新宿の街並みを描いた作品(※1)。海外の人が選ぶ作品は、日本人が思う日本らしい風景ではなく、予想外なものが多いという。
ヤマガミ氏「最初、なぜこの絵を購入したのかなと思ったのですが、メルボルンに行ってみると日本の風景と近しさがあることに気づきました。また、日本のイメージはお寺のようなザ・日本というよりも、意外と東京の雑多な様子なのかもしれないと感じましたね」

(※1)『Shinjuku Calling』展示場所:ビクトリア国立美術館

日常の美しさに気づくきっかけ
長年同じ場所にいると、ちょっとした変化にもあまり気づくことがない。ヤマガミ氏の作品は、普段の日常が本当は綺麗なものだったことに気づくきっかけを与えてくれる。
ヤマガミ氏「映し出される映像はCGでもないし過度な加工もしていない。純粋に僕が綺麗だと思った日常の景色を投影しています。綺麗な場面が普段見ている景色のなかにちゃんとある。その瞬間を、作品を通して多くの方に見せられると良いなと思います」
普段目にしているものの中に、実は重要なヒントや気づきがあるのかもしれない。

ヤマガミ ユキヒロ Yukihiro Yamagami
1976年大阪生まれ。2000年京都精華大学美術学部卒業。日常で見慣れた風景を鉛筆や墨などで描画した絵画に、同一視点から撮影した映像をプロジェクターによって投影する「キャンバス・プロジェクション」という絵画に光と時間を取り入る独自の手法により作品を制作。これまで東京ステーションギャラリー、アサヒビール大山崎山荘美術館、川崎市岡本太郎美術館などでの展覧会に参加。また、2014年からは能楽とのコラボレーションによる「noh play」というプロジェクトに取り組み、2016年に「noh play 2016」(札幌市教育文化会館)、2017年に東アジア文化都市2017京都開幕式典にて「noh play TAMURA」(ロームシアター京都)の舞台芸術を担当。