クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
アート
2019.02.06

唯一無二の存在「VRアーティスト」なぜ、海外からのオファーが続く?

VR空間は日本文化に通じるものがあった

POINT
✔VR空間に通じる「空間を含めた美しさがあるのが日本の美」
✔VRを使って仕事をしだす人が生まれた初めてのケース
✔正解がわからなくてもSNSで発信することで見えてくることがある


3年前の2016年、テクノロジー界隈をざわつかせたVR(バーチャルリアリティ)。どのようにビジネス化できるか、多くの人たちが考える中、いち早くアート分野で抜きん出てVR界隈のプロたちを驚かせたVRアーティスト せきぐちあいみ。せきぐち氏が活動する中で気づいたVR空間と和の融合は、唯一無二であり世界の人たちから日本を知ってもらえる言語を超えたコミュニケーションの一つになっている。個人で活躍するために大事なことを、せきぐち氏から聞く。
※VRアート:VR用ヘッドセットと絵を描くための専用のデバイスを持って、空間に立体アートを描く。

VRは、360°描ける魅力があり、日本の美とつながる精神がある

―「VRアーティスト」はVRが出てきたからこその呼称だと思いますが、具体的にどのようなアート表現を行っているのでしょうか?
せきぐち氏「もともと、VRと出会う前は3Dペンを使ったアート表現をしていました。3Dペンは、アナログな3Dプリンターのようなものなのですが、立体的に作ることができるので、それが魔法っぽくて夢があったんですね。その後、360°描けるVRの世界が魅力的で取り憑かれてしまったんです。作品としては、日本庭園や、幻想的な生き物である龍など、日本的なモチーフを表現することが多いです。空間を含めた美しさがあるのが日本の美だと思えるので、360°のVR空間に、日本の景色がはまるんじゃないかなと考えています」


海外からの初めてのオファーは、アメリカ・シリコンバレーからだった

―では、VRアーティストになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?また、VRアーティストとしてどのように発信を行ったか教えてください。
せきぐち氏「2016年に、たまたまVRを体験できる機会がありました。その時に『魔法みたいだな』と思って日本庭園を描いて試しにツイッターとYoutubeに投稿してみたんです。それがきっかけで海外からオファーが来るようになって仕事につながりました。最初のオファーは、アメリカのシリコンバレーで行われるVRイベントでのライブペインティングで、日本のVRチームに入り一緒に参加させていただきました。イベントの性格上、VR関連のプロの方たちが多く、人だかりができていてパフォーマンスをすること自体が怖かったのですが、パフォーマンスを見ていただいた方からは意外にも『こんな使い方があったんだ』という声をいただけました。多分、『VRを使って仕事をしだす人が生まれて初めてのケース』だったんだと思います。その後もサンフランシスコ、ロサンゼルスなどからのイベントオファーが続いています。また、アプリの中の絵を描いてもらえないかというオファーなどもあり、タイ、ドイツ、マレーシア、シンガポールでお仕事させていただいています」

―何かを生み出すためのインプットはどのようにされていますか?
せきぐち氏「私の場合、日々進化しているテクノロジーのVRと、絵を描くアナログの部分がありますので、それぞれインプットがあります。VRに関しては、常に新しい情報を入れるようにしています。あと、トライアルとして3Dで作ったビジュアルをUnityで動かしてみたりもします。まだまだ実現まではできていないですが、ドローンとコラボするとどうなるのかとか、画像生成AI分野も注目していたりします。『和』という部分に関しては、日本の伝統工芸を見たり美術館へ行き、表現をインプットしています。日本のものは、素材から色々な人の手が加わり命が重なって出来上がっていると思うんです。そこがデジタルとは違う深みがあると思っていて、その深みみたいなものをどうにかしてVRへ入れ込みたいという思いがあります。アナログから感じられる温度、匂い、空気をデジタルに落とし込みができないとデジタルがなくなってしまうように思えているんです。私のライブペインティングを実際にVR空間で体感してもらうと『すごい』と言ってもらえることが増えましたが、そこからの深みというか、VRの別世界からもう一つ深いところへ行ければと思い、日々研究しているところです」


SNSによってアーティストの表現方法もマネジメント手法も劇的に変化した
−VRアーティストとして仕事をする中で、大事だなと思うことを教えてください。
せきぐち氏「昔は、アーティストやタレントは、事務所やプロダクションにプロデュースしてもらってキャラクターを作って売ってもらうというやり方が主流だったと思うんです。しかし、今はSNSもありますし自ら発信できる場はいくらでもあるわけですから、いかにして自分がやっていることや良いと思うことを発信できるかというのが大事になってくると思っています。私の場合も、一人で篭って絵を描いていても誰にも見つけてもらえなかったかもしれません。昔は周りから『色々なことをやるな』と言われていましたけど、今はなんでもやってみて発信します。それに対する周りのリアクションから気づきを得られることも多いので、固定観念にとらわれず何でもトライすることが大事だなと考えています。そして、色々と発信することで見てくれている人たちが楽しんでもらえることが大事だと思っています」

―今後、VRの世界はどのように進化していくと考えられていますか?
せきぐち氏「今は、VRのヘッドセットが大きくてまだまだ値段も高いので、なかなか一般社会への浸透は現時点の仕様では厳しいです。しかし、将来確実に眼鏡型くらい手軽なサイズになり、価格も下がってくると思います。そうした時に、これまでスマホでやっていたことが眼鏡をかけることで空間を使ってできるようになると思います。より多くの人にVRアートを気軽に楽しんでもらえたら嬉しいですね」


編集部の視点
日本の美というものが、360°の空間を含めてのものであるということを、デジタルで360°のVR空間と通じるものがあることに気づけたことが、日本人のVRアーティストとして確立できる源泉になっているのではないだろうか。現状、せきぐち氏が表現するためにかかるコストは、PCやVRヘッドセット、センサーなど含めて30万円ほど必要だ。機材の小型化、それに伴う価格ダウンが進むことで、市場拡大が予測されるとともに、文化を基軸としたコミュニケーションの広がりが楽しみとなりうる分野であることは間違いないだろう。


せきぐち あいみ Aimi Sekiguchi

VR空間に3Dのアートを描く、VRアーティストとして活動中。VRでのアート制作やライブペインティングのステージ公演を国内や海外(アメリカ、タイ、マレーシア、シンガポール、ドイツなど)でも行なっている。博報堂プロダクツ アドバイザー。クリーク・アンド・リバー社所属。