クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
アート
2019.02.07

「質量への憧憬展」落合陽一の世界

落合陽一が写真家として個展を初開催
「デジタルで表現できない物質性を持った表現」

POINT
✔デジタルの感性からみるアナログ世界への憧憬を表現したい
✔時間経過とともに変化して魅力的になる質感をカメラで切り取る
✔8Kテレビとブラウン管を並べると、解像度では表現できない物質性があることに気づく


「デジタルの感性からみるアナログ世界への憧憬を表現したい」と言う思いから、メディアアーティスト落合陽一氏がこれまでカメラに収めてきた写真の中から200点を厳選し、初の展覧会を開催。会場には、ソルトプリント(※1)と呼ばれる特殊な技法によってプリントされた写真が並ぶ。初日を迎えた2019年1月24日、落合氏本人によってギャラリーツアーが行われた。これまで、デジタルを駆使した先鋭的なアート作品の発表や、大学准教授としての教育活動、論文や書籍の執筆活動など活動領域はとても多岐に渡る。本展では、落合氏が切り取る不可逆的な瞬間が、言葉を超えてデジタル表現されることで、独特な美的感覚が放たれる。「写真」と言う二次元の表現方法が、どこまで人々の感性を刺激できるのか?落合氏が表現する言葉やビジュアル、メディアアートの間にある、「質感」や「物質性」そのものに注目した作品が並び、落合氏が持つ美的感覚の根底を探ることが出来る。今回のギャラリーツアーでは、落合氏が作品にまつわる言葉が次々に飛び出す。非常に核心をつくその言葉たちと2次元のデジタル写真とともに時代を感じてもらいたい。

(※1)ソルトプリントとは、19世紀中頃に、英国人ウイリアム・H・タルボットによって発明された世界で最初の印画紙。今回発明当時と同じ手法で再現されたプリントは写真誕生当時の息吹を今に伝えてくれる。プリント制作は薬品を紙に塗布して印画紙を作るところから全て手作業のため、手作り感や物質感が感じられるのが特徴。その名の通り、塩と銀の融合によって感光性を利用するため他の印画法とはひと味違った独特の表現になっている。

落合氏は、写真を撮ることについて次のように語っている。

「写真を撮ること、撮り続けることが好きだ。

メディアアートして表現することで作家として消し去ろうとした一人称が、
写真やイメージを集合させることで浮かび上がる。

視点の集合と離散を通じて、不可逆な時間を生きることを自覚させられる。
瞬間と瞬間が物質性を伴って記録され、その展示自体も風景にされて行く。そういった
プロセスを感じながら過去を生み出して行くことが好きだ。

僕が写真を撮るとき、アナログな体と光の中でそこにあるデジタルを研ぎ澄ます。
デジタルでしか見えない世界認識で、失われつつあるものを切り取り、
手触りを与えるプロセスを通じ、時間と空間の解像度との対話をしている」
(プレスリリースより)

映像を生ける1
オールドレンズでのぞいた風景の中で風にそよぐ草と、質量を携えて風にそよぐことのないギャラリーの草(キャプションより)

落合氏「以前から『卓上インスタレーション』をやってみたいと思っていて、今回展示してみました。映像の中で風にそよいでいる草と、リアルな草を卓上で組み合わせて、インスタレーションとして表現しています」

質量への憧憬:看板
看板に蓄積された貼り後が時間のと空間の結晶を見せる(キャプションより)

落合氏「看板を写真におさめることが好きで、これは『ネオ昭和』をテーマに集めたシリーズです。真ん中の看板からは、何度も広告を貼っては剥がしを繰り返した跡が見て取れますね。長い年月の間、この場所に存在し続けることで生まれた質感がとても魅力的です」

8Kテレビとトリニトロンなどのブラウン管が並ぶ
質量を持つメディア装置は壊れる。ブラウン管に感じるノスタルジアはナムジュンパイクの時代にあったビデオアートの先駆性と異なっている。我々が今ブラウン菅にみる質量性は液晶やLEDや有機ELの時代から見た価値観に基づいている。テクノロジーは変わる。メディアアートの時代性は時代によってそのテクノロジーの風化を伴うエイジングをする。しかしデジタルデータはどうだろうか。もちろん処理能力が上がればより高精細に見えるようなアルゴリズムもあるかもしれない。しかし解像度の足らない画像データから見えるのはノスタルジアだろうか。それともエイジングだろうか。(キャプションより)

落合氏「最新の8Kテレビとトリニトロンテレビ(※2)を並べてみました。トリニトロンは、ヤフオクで買ったものです(笑)。こうして新旧のモニタを並べてみると、なんとなく古いブラウン管の方が質量を感じさせるんですよね。何故かというと、ブラウン管にはわずかなノイズがあり、それが超高解像度の8Kディプレイにはないリアルさを生み出しているんです。解像度では表現できない物質性があるということです」

(※2)トリニトロンは、ソニーによって開発されたアパーチャーグリル方式のブラウン管のブランド名。世界で2億8000万台販売された。

質量への憧憬:鳥居

落合氏「これは、もともと看板だったんですよね。時間の経過とともに看板が落ちて鉄骨だけになった。これは、まさに『鳥居』に見えます。非常に物質性を感じている1枚ですね」

日々のことを忘れてしまいがちなので、カメラにおさめている
–最後に落合氏は、人生において「写真を撮る」ことは、どのような位置づけなのかを語った
落合氏「忙しい日々を過ごしている中で、やっぱり色々と忘れちゃうことが多いんですよね。その時に感じたことや思ったことをを思い出せるように、カメラで写真として記録している感覚です。モチーフは、自分の中で『気持ちいい』とか『キレイだな』と感じたものを撮っていますね」


編集部の視点
テーマが「質量への憧憬」と聞いて、その写真たちを目にするまでは正直、どのようなものか想像が出来なかった。しかし、200点の写真をテーマごとに分かりやすく展示されているものを見ると、感覚的な素晴らしさを感じた以上に、とても分かりやすい表現となっており、どこまでをデジタルを駆使してフィジカルを表現できるのかを熟知しているんだろうと直感的に感じられる展示内容であった。落合氏の「写真家」としての一面を垣間見える空間であることは間違いないだろう。


落合 陽一 Youichi Ochiai
1987年生まれ。メディアアーティスト。
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。Prix Ars ElectronicaやEU STARTS Prizeなど国内外で多数の芸術賞を受賞。過去にSEKAI  NO  OWARIやONE OK ROCK、紫舟をはじめ、さまざまなアーティストとコラボレーション作品制作や演出を手掛ける。筑波大学准教授・学長補佐。Pixie Dust Technologies.incを起業しCEOとして勤務。