クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
アート
2019.02.18

「金魚養画場」養魚場のように金魚の画を養っていく

まだ見ぬ金魚を追い求め表現する
世界へ通用する共通言語としてのアート

POINT
✔ リアリティは追い求めない。あくまでも脳内にある金魚像を追い求める
✔ 「守・破・離」に気づいた時、自分が表現すべきアーティストとしての心が見えた
✔ 金魚を表現することは、世界の人に分かってもらえる共通言語のようなもの

さくらももこ蔵

平面に描かれた金魚(樹脂と絵の具を使って幾層にも重ねて立体的に見えるよう仕上げる)は、本物にしか見えないほどに精巧に仕上げられたアート。しかし、そのアートは何かを模して作られたものではない。全てが深堀隆介という作家の脳内から生まれたもの。何故、金魚なのか。そこには深堀氏としての理由と心がある。そして、深堀氏が生み出すアートは、日本人の心を世界へも伝えることが出来る共通言語のような役割も担える期待がある。深堀氏が、クリエイション魂とそこにある産みの苦しみを、包み隠さず答えてくれた。

小さな部屋の水槽の中、金魚の背中がカパッと開いて世界が広がっていた

−「美術なんて辞めよう」と思いつめたところから、美術作家として金魚養画場を表現出来るようになったのは、どのようなターニングポイントがあったのでしょうか?
深堀氏「もともとアーティストになりたいという思いが小さい頃からあり、大学も芸術大学を目指して何の違和感もなく入りました。しかし、卒業後は一般の会社に就職して商業デザインを中心に朝から夜遅くまで仕事をしていました。26歳の時、『アートをやりたかったんじゃないの?』と自分自身に強く問いてみたんです。そうした結果、やはりアーティスト活動をやりたいという意識が強く、正社員からアルバイトに切り替えたのです。しかし、自分が表現したいアーティスト活動が出来ると思っていたのですが、個展を開いたり、イベント催事に参加するたびに酷評を受けていました。その頃の私は、毎回展示毎にテーマを変えて表現するという定まらないことをやっていました。酷評の日々が続き、『もう辞めて楽になりたい』と思った時、自分の小さな部屋の水槽に7年間一緒にくらしていた金魚に目が行ったんです。それまで注目したことなかったのに。7年前、大学生の時に手伝っていたお祭りの最後に金魚すくいの店主からもらい生き残った金魚だったんです。既に片目はなくみすぼらしい姿になっていました。その時、ふと金魚を上から見てみたんです。真っ赤な背中が見えて、その美しさにズキュンとやられたんですよね。小さな水槽の中、金魚の背中がカパっと空いてその中に世界が広がっていくように見えて、その時がいわゆるターニングポイントだと思います。僕はその日のことを『金魚救い』と呼んでいます」

−その後、金魚をアートにするということは、スムーズにできたのでしょうか。
深堀氏「まず、金魚って人が作り上げたものなんですよね。もともとは鮒で職人たちが何百年というこだわりを持って作り上げたものです。そういったことを考えると、職人の手が見えたようでした。金魚の謎の美しさと怖さが見え、『金魚の魅力ってなんだろう?』と考えました。バブルの頃、熱帯魚やアロアナなどが観賞用の高級魚として敷居の高いものになっていましたが、一方の金魚は、縁日で子供たちが金魚すくいをするということを考えるととても敷居の低い位置にあったように思います。更に、学生の時に『絵を描くときは自然からヒントを得る』という教えがどこかに残っていて、人間の手によって作られた金魚は人工のものだから見本にすることはタブーではないかと言う葛藤と闘っていました。しかし、金魚を俯瞰して見た時に、金魚は大自然の一つなんじゃないかと思えたのです。そして、人間も大自然の一つであるだろうと。『守・破・離』に、30代のある時気づいたのです。自分が美しいと思ったものを描けば良いし、先生の言うことを越えて発展していけば良いのではないかと思ったのです」

最近のコンピュータは何でもリアルに作れる。それを見せられて面白いか?

−本物と見間違えるほどのクオリティに仕上がっている「金魚すくい」は、アートとしてリアル感を追求しているのでしょうか?
深堀氏「基本的には、リアル感の追求はしていないのですが、自分の脳内にある金魚像みたいなものを追求しているところはあると思います。そのために、使う道具や絵の具など変えているところはあります。自分のイメージに近づけるためにやり方を変えてみるというのを日々繰り返している感じですね。実は、4,5年目でマンネリ化していた頃に周りから『まだ、金魚やってるの?』と言われたんです。それでも『金魚をやり続けよう』と決めてやってきました。マンネリを解消するには、テクニックの向上しかないと思っていて、数やってだんだん出来上がってくるのを楽しみにやっているところがあります。現代は、3Dプリンターなどコンピュータで何でもリアルに作れます。でも、それを見せられて面白いかな?という思いがどこかにあります。下手なんだけれど、見ると面白い。そういうものがアートには必要なんじゃないかなと思うんです。金魚が、さんまやイワシとは違うなと思うとこは『形が決まっていない』というところです。とても自由な魚で、見たことないような品種も出てきています。そういった存在があやふやなところが逆に良いと思うのです。私が描いているのはあくまでも『創造物』で、何かをサンプルにしていません。写真が無いと描けませんという人も多いですし、何かを見ながら描くというのは模写でしかありません。自分の脳内で描けるようになれば、それは無敵だと思います」

「金魚」は、世界の共通言語ではないか

−これまでのお話から、金魚は日本文化の一つのようにも感じられます。これから、金魚のアートを通して、その日本の心を海外へどのように伝えたいというのはありますか?
深堀氏「日本は、金魚王国だと思っているんです。もともと、古墳時代に中国で金魚は生まれているんですが、文革の時代に高級な金魚は、ほとんど排除されたと聞きました。そのこともあり日本には良い遺伝子が残ったんです。今でこそ中国でも復活していますが、絶えることなく職人たちによって繁栄し続けている日本は凄いと思っています。また、日本人は金魚を熱帯魚と一緒に飾ることもしませんし、金魚への特別な感情を持っているようにも思います。そういったことを思うと、日本人としての自分を表すには、金魚で表現することで世界の人々にも分かってもらえるような共通言語になるように思っています」

編集部の視点
自身で飼っていた金魚に魅了され、金魚の背景にある日本文化に魅了されて、唯一無二の「金魚養画場」として表現する。ここまでに金魚を鮮明且つクリエイティビティに仕上げられるアーティストは他にはいないだろう。ここから海外へ発信するにあたり、海外が持つカルチャーとのコラボレーションなども深堀氏は前向きであることが分かった。例えば、ストリートカルチャーであるスケートボードやサーフボードなど、躍動的な金魚を板へ描き、空中でその見事な姿が見える。そんなカルチャーを超えて創造することは、とてもワクワクすると笑顔で話してくれた。


<2019年3月展覧会情報>
深堀隆介展
2019年3月23日(土)~5月12日(日) 開催
【時間】10時~18時 ※入場は17時30分まで
【会場】みやざきアートセンター 5階


©Masaru YAGi
深堀 隆介 Riusuke Fukahori
美術作家
横浜美術大学客員教授、弥富市広報大使
神奈川県在住
◆金魚養画場