クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
アート
2019.02.27

歴史から学ぶことは、未来を的確に創造できることに繋がる

「江戸の街道をゆく〜将軍と姫君の旅路〜」

POINT
✔『街道』に注目し、江戸から近代、現代のルーツを振り返り未来創造の気づきを得る
✔便利すぎる現代でも災害時のような便利機能を失う事態が起こりうるということ意識して、歴史から学ぶ
✔平成から次の時代になった時、「平成のイメージ」が出来上がるのだろう


2019年、間もなく平成という時代が終わり、新しい時代が始まる。その終わりと始まりのタイミングを挟んで2019年4月27日(土)〜6月16日(日)に、東京都江戸東京博物館で開催される特別展「江戸の街道をゆく〜将軍と姫君の旅路〜」。江戸時代、幕府によって整備された街道には、さまざまな人や行列が往来し、活気にあふれていた。江戸時代の街道は、形は変わりつつも現代にもしっかり残っているが、時代が変わる今だからこそ、それらの歴史や文化を振り返り、未来を創造するための気づきを得ることが必要ではないだろうか。そこで、どのような視点で歴史や文化を学ぶことがわかりやすいか、本展覧会を企画した東京都江戸東京博物館の学芸員 杉山氏へ話を聞く。

本展覧会のテーマである『街道』は、江戸時代から現代へ繋がっている

−はじめに、東京都江戸東京博物館のコンセプト、役割について教えてください。
杉山氏「当館は都市史を扱う博物館です。館名にも『江戸東京』が入っているように、江戸時代から近代、現代に至るまでの歴史や文化を広く伝える目的で展示を構成しています。江戸の粋、賑わいを感じて頂ける演出は、お客様に好評をいただいています。1階と5階で役割が違うのですが、1階は期間を定めた展覧会等を開催していて、特に歴史好きな中高年層のお客様が目立ちます。5階は常設展示をしていますので、学生の社会科見学や外国人の方のツアーなどが組まれていらっしゃる方が目立ちます」

−特別展「江戸の街道をゆく」を企画された背景を教えてください。また、展覧会を通して来場者へどのようなことを伝えたいと考えていらっしゃいますか?
杉山氏「当館では、これまで『街道』そのものをテーマにした展覧会はありませんでした。また今回、再オープン記念の特別展ということで、江戸時代の華やかさを伝えたいという思いがありました。本展覧会の展示資料は全て当館で所蔵しているものですが、資料の情報を集めて展覧会のコンセプトを考えていくうちに、将軍と姫君の視点に着目して、華やかで荘厳な旅のイメージを見せられるのではないか?と考えました。『街道』というテーマを通して伝えたいことは今でも江戸時代の街道は残っているということです。しかし、何気なく生活している現代の人たちは、そういったことは認識がほぼないと思います。将軍や姫君が通行した『街道』は現在にもつながっています。この展覧会をきっかけに改めて歴史を振り返ってもらえたらなという思いがあります」

描かれているものから時代を読み取る面白さを知る

−今回の展示では、どれくらいの作品点数が用意されているのでしょうか。また、作品の見どころはどのあたりになりますでしょうか?
杉山氏「全体で140点ほどあります。見どころはチラシのデザインで用いている『朱傘』です。江戸時代の制約として、将軍や御台所(将軍の正室)のような尊い人物を直接描くことは禁止されていました。そこで、そこにその人物が居るということを暗示するためのシンボルとして、朱の傘を描いていたのです。この傘は、尊い人物しか使えないものとされていました。さらに、傘の縁の部分に注目するとよくわかるのですが、縁部分が垂直に折れています。これは『爪(つま)折(おり)傘(がさ)』と言われるもので、貴人しか使うことができないものでした。また、絵巻をよく見てもらうとわかるのですが、姫君の婚礼の行列では行列に加わっている女性の姿は描かれないというのが基本の形式でおもしろいところです。女性は乗物に乗って姿が見えず、行列で描かれているのは男性のみだったのです。これらは、江戸時代の武家社会の一端を表しているのかもしれません」

−展示に関する企画は、どのような手順を踏まれて公開に至っているのでしょうか?
杉山氏「学芸員が研究成果を踏まえ、『こういった展示ができるな』というところからストーリーを考えたりします。また、歴史上の偉人が没後何百年など記念の年に、それらを振り返るような企画を考えるケースもあります。企画が固まってくると、目玉となる資料を中心にして展覧会の構成を組み立て、他の博物館や寺社、個人の持ち物に至るまで幅広く資料を集めていきます。そういった中で内容を固めて行くのです。それと同時並行で広報活動やカタログ作成、会場演出など様々なことを考えていきます。会期が近くなってきたら展示の準備に入ります。これら一連の作業は、学芸員が行うものとなっています」

平成時代に「昭和のイメージ」が作られたように、平成が終わってから「平成のイメージ」が出来上がる

−今年は、平成が終わり新しい時代が始まります。当展覧会もちょうど元号が変わるタイミングでの開催となっていますが、そういった時代変化の元、江戸東京博物館を今後どのように伝えていきたいと考えていらっしゃいますか?
杉山氏「『昭和』という時代のイメージが頭に浮かぶように、今年、平成が終わることで『平成のイメージ』が出来上がってくるのではないでしょうか。個人的に、歴史から学ぶことは多いなと思っています。過去の人も、私たちと同じ人間であるということを学ぶほどに思います。今は便利な世の中になりました。例えば今後、災害が起こったりすることも考えられると思いますが、その時に江戸時代も災害が起こった時に作り直された歴史を学ぶことで、これからどうしなければいけないのかというのを考えるきっかけになると思っています。つまり、災害によって機械の便利さはストップしてしまうわけですから、機械が発達していなかった頃にどうやっていたのか?というのを学ぶ必要があるのではないかと思うのです。形を変えながらも身近に残っていることは多くあるので、普段見過ごしたりしていることや、気にかけないことなどを、本展覧会が、ちょっと振り返ってみようと思ってもらえるきっかけとなり、歴史に興味を持っていただけるように、学芸員として努力していきたいと考えています」

編集部の視点
2019年は、平成から次の時代へ変わる年になるが、今回取材させていただいた杉山氏が言う「平成が終わることで『平成のイメージ』が出来上がってくるのではないかと言うこと。これはこれまでの歴史を深く理解できていないとなかなか出てこない言葉ではないだろう。時代が変わるこのタイミングでは、歴史や文化を改めて見直そうと言う動きがあるが、歴史、文化から学べることは新しい時代へ持っていけるものばかりのように思う。


<展覧会情報>
特別展「江戸の街道をゆく~将軍と姫君の旅路~」
会期: 2019年4月27日(土)~2019年6月16日(日)
会場:東京都江戸東京博物館(両国)
1階特別展示室
※休館日、開館時間等は江戸東京博物館ホームページでご確認ください。


杉山 哲司 Satoshi Sugiyama
東京都江戸東京博物館学芸員。平成2年(1990)埼玉県出身。國學院大學大学院博士課程
前期修了。公益財団法人德川記念財団研究員を経て現職に至る。専門は日本近世史。