クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.27
カルチャー
2017.09.15

アイデアひとつひとつをカタチにし潜在的なニーズを実現する

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野球はチームワークやリーダーシップを学ぶことができる場としても楽しまれる。しかし、メンバー間のスケジュール調整や試合の審判、試合中のスコア係などチーム運営の負担もある。そこでチームの幹事やメンバーの「悩み」を基に運営を手助けしたいという想いから、野球専用のグループウエア「みんなの9389」 というWEBサイトが開発された。
開発を依頼した株式会社IBJの中本氏も、ソフトボールを楽しむ一方、毎週の連絡係に苦労した経験があった。初期開発ではそこからヒントを得て、チーム内の連絡の手間の削減や簡易な成績管理は実現したが、詳細なスコアブックへの記録や成績集計の課題が残されていた。そこで、より便利に活用するためのリニューアルとアプリ開発が行われた。「初心者も感覚的に使いこなせる野球のスコアブック」を作って欲しいと開発依頼を受けたのは女性6人のITエンジニア集団、デジタルムーンだ。今回は、本プロジェクトに携わり「悩み」や「アイデア」を実現したポイントについて、デジタルムーン開発担当の和田氏に伺う。


時間をかければ良いものが生まれるとは限らない

近年、何かを作ろうとすると既に同じようなものが存在することは多い。しかし今回は、類似アプリが全くなかったため、既存のものにとらわれない自由な発想で作り上げることができたという。
和田氏「野球経験がないからこそのヒントがあると思い、まずはルールブックを見ながらプロ野球中継のスコアをつけてみました。すると、1回どころか1打席もままなりませんでした。なぜスコアブックへの転記が行えないのだろうか……ルール、記号が分からないこと、調べるのにも時間がかかり、手間に感じてしまう。それを『楽しい』に変える方法として何があるのだろうか、球場で記録するのならどんな操作が簡単なのだろうか……と元高校野球児、現草野球選手、高校野球コーチ、少年野球児の保護者など様々な立場の方に意見をもらいました。ユーザーのシチュエーションから想像を膨らませ、そこからアイデアを絞り出し、良いと感じたものを実装してみる。全部を一通り終え、一から組み立て直すことを何度も行って、使いやすい形を追求していきました」
デジタルムーンは全社員がリモートワークを取り入れている。和田氏も在宅ワーカーとして働く中で見つけた気づきがあった。
和田氏「煮詰まったら、さっと家事を済ませる。それが気分転換になり、新しい発想へとつながりました。時間をかければ良いものが生まれるというわけではないのです」


余計なものをすべて、そぎ落とす

ひとつひとつ実現されたアイデアも、複数のアイデアが組み合わさるとそれだけ複雑さが増す。スコア登録のUIにおいても同様だ。どの流れが一番自然に操作できるのかシンプルな動きが求められた。
和田氏「シンプルなシステムを作るためには余計なものをすべてそぎ落とし、本当に必要なものだけをチョイスしていかなくてはなりません。必要のないもの、使わないものを手放すことで、本当に価値のあるものがさらに浮かび上がってきます。例えば、ワイルドピッチ。キャッチャーの取れない投球なら暴投、ランナーが三塁にいるときならワイルドピッチとなる。しかし、キャッチャーがとれるところに来て捕れなかったら捕逸といいます。このように少しの差で名前が大きく変わり複雑に思えますが、ピッチャーの球種記録はボールなので、ピッチャーの記録だけを見るととても簡単です。名前ではなく動きに着目し、データの取り方を考え記載していくことで自然な流れが生まれていきました。そして、その流れにあったUIを設計することができたのです」


編集部の視点

汎用的なシステムは、巷にあふれている。しかしニッチな業種、特別な状況や場面で、業務改善や顧客サービスの向上のニーズはまだまだ多く潜んでいる。潜在的なニーズを引き出す一つの方法として、アイデアひとつひとつをカタチにする作業は貴重である。今回のプロジェクトも、結婚、出産、子育て、教育、看護、介護など、生活者としての経験の豊富さ、システム開発者としての長いキャリアが生かされたのではないか。


■有限会社デジタルムーン