クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
カルチャー
2019.02.15

ターゲットを「クリエイター」にした40棟のオフィスビル

都内に出現する日本離れしたリノベーションオフィス
海外のクリエイティブワーカーの働き方から着想を得る

POINT
✔どこからでも「緑」をシェアできる「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA」が、新ライフスタイルを提案
✔不動産会社主体のオフィススタンダードから、クリエイター主体のオフィススタンダードへ
✔日本のオフィスは不自由である、海外のクリエイティブワーカーから着想を得て自由でクリエイティブな空間へ


アメリカのシアトルからスタートしたリノベーション型のACE HOTEL(エースホテル)やダイニング・イベントスペースを併設したNeueHouse等は、クリエイターや地域住人のコミュニティ創出の場として有名だ。そこに集まるクリエイターやスタートアップの柔軟な働き方や自由なライフスタイルから着想を得て、次々に東京のビルをリノベートしオフィス空間を生み出してしているのがリアルゲイトだ。2018年10月、南青山一丁目の豊かな緑に囲まれた、倉庫2棟、事務所2棟、及び広大な更地しかなかった約10,000㎡に及ぶ空間をリノベートし、完成したのが『SHARE GREEN MINAMI AOYAMA』。カフェ・グリーンショップ・オフィス・イベントスペースから成る複合施設。昨今、ゆるやかに始まっているワークとライフの垣根が無くなるライフスタイルづくりについて、本施設の企画・設計を行ったリアルゲイトの設計者、菅原氏が話してくれた。

ワークスタイルとライフスタイルの垣根が消えた新複合施設「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA」

−SHARE GREEN MINAMI AOYAMAは、“PARK LIFESTYLE”というテーマを打ち出していますが、その意図するところを教えてください。
菅原氏「この敷地はNTT都市開発が所有している土地で、都心の一等地にありながら、緑が豊かで希少な立地でしたが、商業エリアとしては未開の地であるという状態でした。隣には地域のブランドが確立されている六本木や表参道がありますが、この場所は緑を大事にしながら地域に根ざした土地の有効活用が出来ないかという彼らの思いが始まりでした。そのため、『緑をシェアする』というコンセプトのもと、どのような店舗やコンテンツが必要かというところからプロジェクトが進んでいきました。私自身、緑をシェアするということが良いなと思っているのは、それが人の行動の目的にならないということです。敷地にあるカフェ、オフィス、グリーンショップ、広場など、どこにいても緑を感じられます。購買欲求のように消費されていかず、皆が思い思いの目的で何度訪れてもそこでは違う緑が迎えてくれます。それぞれのライフスタイルの中で緑がある風景がシェアされ、緑を通してゆるく繋がれるというスタイルがこの場所で出来るのです」


クリエイティブが生む不動産の価値とは

−分断されがちなワークとライフをシームレスにするために、具体的にどのような空間づくりを考えられたのでしょうか。
菅原氏「私たちが設計をする時に大事にしていることは、『働く人にとっての所有感』だと考えています。これまでのオフィスは、原状回復を前提とした、当たり障りのない素材でできた空間の中で、ルールに縛られすぎている感覚が大きく、しがらみによってクリエイティブな発想が制限されるのではないかという疑問がありました。もちろんルールは大事ですが、AIやIoTの発達で効率化されていくワークスタイルの中では、自分たちのアイデンティティの表現が自由にできる空間や、充実したライフスタイルの中で働くという楽しさに価値が置かれていくと感じます。そのような空間で働く人はどのような人なのか、何を求めるかを細分化していきます。地域との関係性からみると、青山、渋谷あたりはIT企業が多く、青山、表参道であればアパレル、デザイン事務所、中目黒だとアーティスト、九段下などは士業の方などで分類できます。これらをポジショニングした上で、『クリエイターがどういう仕事の仕方が出来るのか、何を必要とするのか』というのを考えています。今回できたSHARE GREEN MINAMI AOYAMAであれば、WEBデザインやアパレルに加え、カップル等の来街者、周辺に住む家族等がターゲットに挙げられ、朝、カフェでコーヒーを買って会社に向かう姿や、芝で子供を自由に遊ばせるお母さん方、イベント等のアクティビティを眺めながらの井戸端会議、Wifiが設置された屋外スペースで気分を変えての作業、隣接しする様々な街へ行けるようレンタサイクルを用意したり、様々なワークスタイル・ライフスタイルの向上を想定した空間づくりをしています」

−これまでのオフィスとこれからのオフィスを比較したときに、どのあたりが決定的に違ってくるのでしょうか。
菅原氏「従来の不動産の考え方というものは、レンタブルを高める考え方です。それは何かというと、貸室の面積をできる限り確保して、貸しだすという方針で、共有部をなるべく少なくし、廊下をなくすという考え方です。しかし、私たちは面積と立地だけで決まってしまう一般的な不動産の考え方に対し、デザインや企画力によるクリエイティブという要素を付加価値として加えることが重要だと考えます。クリエイターにとって価値があるものと判断すれば、貸室でない共用部を充実させ、アーティストとコラボしてアートを描いてもらう。また、専有部は入居後すぐに働ける環境を提供しながらも、自分たちのデザインで空間をオーダーメイドすることもできる等、多様化しているテナントの働き方に合わせた柔軟な空間づくりをしています」

−実際、参考にされているデザインや設計などあるのでしょうか。
菅原氏「『コミュニケーションとは作ってあげるものではなく、居心地が良い場所があれば自然発生する』と思っており、エースホテルやNeueHouseでは、共用空間においてそういったことが出来ているのです。また、今のクリエイターやノマドワーカーたちが自然と集まって働いているカフェやコインランドリーのような場所も増えてきました。装飾的な部分ではなく、彼らの心に訴える要素を汲み取って、空間に活かしたいと考えています」


海外からの大手シェアオフィス企業の市場参入について

−外資系大手シェアオフィス企業も、アートなどを取り入れとてもクリエイティブな作りをしたオフィスを作っていますが、やはり競合の一つとして見られているのでしょうか?
菅原氏「海外のシェアオフィス事業者に限らず、事業者のターゲットは様々です。大企業へアプローチしたいスタートアップや、大企業のオープンイノベーションへの期待を持つ企業など、それぞれ企業規模や利用者のニーズが異なります。その中でも弊社のテナントは、1社平均4.5人の中小企業やスタートアップが中心です。大手シェアオフィスは、拠点数が多く、統一されたブランディングによって、拠点を行き来しながらもどこでも同じように働けることが魅力です。そのため、ゾーニングや区画もプログラマティックにつくられています。私たちはアートやデザインを取り入れるだけではなく、ビルオーナーの想いや地域性、周辺ワーカーに寄り添ったブランディングをすることが大切だと考えます。弊社の物件はシリーズ化したブランドをあえてつくらず、どれひとつとして同じデザインのものはありません。建物1棟でのリニューアルならではの特徴だと思います」

編集部の視点
古いビルをリノベートし、東京のあちこちが蘇りはじめた新オフィスビルは既に40棟を超える。単純なシェアオフィスに留まらない、もっと自由に働きやすく、いつのまにかライフスタイルそのものになってしまうこと。ターゲットがクリエイターから始まっているものの、今後はクリエイターの周りへ派生する日もそう遠くはないだろう。その時に、「働き方改革」の革新が起きるのではないだろうか。


菅原 大輔 Daisuke Sugawara
1987年生まれ、一級建築士。デザイン事務所や設計事務所を経て、2017年に株式会社リアルゲイトに参画。同社、企画設計部リードマネージャーとして、不動産コンサル、企画、設計監理等に携わる。