クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
カルチャー
2019.02.26

海外進出を成功させる鍵は「ストーリーテリング」?

ドイツへ進出している日系企業は約2,000社
必要なのは認知度を上げるために独自のストーリー

POINT
✔日本で有名な企業も、ドイツではほぼ知られていないと認識する必要がある
✔製品を営業する前に、現地のターゲットオーディエンスにマッチするストーリーを作る必要がある
✔日本企業がドイツ市場へ参入する際、現地の重要なタッチポイントで認知度を上げる必要がある


現在、ドイツには2,000以上の日系オフィスがある。しかし、メディアやコミュケーションチャンネルにおいて、日系企業について耳にすることはほとんどないと言う。モノづくり精神や敗戦の境遇など、日本とドイツは精神性が似ていると言われることも多いが、それでも国民性の違い、文化の違い、企業文化の違いによるビジネス機会を掴みきれない日本企業は少なくない。果たして、ドイツ参入で日本の企業にとって課題となることは何なのか?ドイツ・ミュンヘンで日系企業を含むテクノロジー企業の支援を行っている、Storymaker代表アイヒシュテット氏とジュニアコンサルタント齋氏へ話を聞いた。

ドイツ市場における日系企業の認知度は20年前とほぼ変わってない?

−はじめに、STORYMAKERが何故、日系企業へサービス展開することになったのか背景を教えてください。
アイヒシュテット氏「元々小さい頃からずっと日本に興味を持っていて、初めはアニメ、それから日本のテレビゲームや映画を通じてドイツにいながら日本という国を学び、文化に触れてきました。Storymakerには、設立されたばかりの2001年に入社しましたが、日本へ初めて訪れたのは2010年の新婚旅行の時です。この旅行を機に日本のテクノロジー企業についても学び始め、その後も数回プライベートで日本へ行きました。同時に欧州における日本企業の活動について調べてみたところ、日本で知った企業の多くがこちらでも事務所を持っていることが分かりました。しかし、その活動に関する情報は私には届いていない状況でした。こうした背景から2012年に日本企業支援の構想を練り、ゼロからネットワークを構築し始めました」

齋氏「それ以来Storymakerは日本市場との関係を築きあげ、これまでパナソニックやリクルート、TOTO、田中貴金属、東レ、NTTデータなどの企業を支援してきました。サポート内容としては、ドイツ市場のためのストーリー作成からPR、デジタル・コミュニケーション、そしてコンテンツ作成における活動支援です。この際、多くの日本企業にとって大変なのが後者の活動です。なぜなら、日本でのコミュニケーションは間接的で個人的なネットワークを通して行われるため、ほとんどの日本企業ではコンテンツ収集の為のプロセスが十分に確立されていないからです」

−実際、日系企業のドイツでの認知度はどのようになっているのでしょうか?
アイヒシュテット氏「以前、StorymakerはJETROデュッセルドルフと共同で日系企業の認知度調査アンケートを実施しました。対象者は、現地の産業・ビジネスジャーナリストたちです。結果としては、認知の上位に来たのは、トヨタ、ソニーを始め、世界的に認知されている大手で歴史ある企業ばかりでした。おそらく、20年前に実施してもさほど変わらない結果だったのではないか?という内容でした。また、ドイツ市場とのコミュニケーションにおいて解決されなければいけない課題についても調査を行いました。課題はいくつかあるのですが、大きな要素としては『内向的』『不透明』、そして『コンタクトが取りづらい』ことが挙げられます。この調査を通じて、コミュニケーション上の課題を明確にすることができました」

齋氏「様々な日系企業の方とお話させていただくのですが、傾向として『製品推し』から入られる企業が多いです。ドイツでは、そのアプローチは厳しく解決されなければならない大きな課題です。何故、製品押しになってしまうかの理由ですが、ドイツへ参入する際に先鋭部隊として「営業」部門から入ってくる企業が多いからではないかと見ています。すなわち、広報やPR部門がいないことによりプロモーション戦略が練りきれず、製品推しの案内になっているように感じます。営業部門が自社の製品について現地の潜在顧客企業へアプローチをかけますが、それまで名前すら聞いたことがない為、この状態でアポイントを取ることは非常に困難です。ここでの『イメージ』と『認知』は重要な要素であり、メディアや現地ネットワークで露出(存在)しない企業が注目を集めることは難しいのです。また、アメリカ企業がドイツに進出する行動を見てみると、実際にオフィスを開設する2年以上前からドイツのメディアへ連絡を入れて企業アプローチを始めます。時間をかけてPRしていくわけなので、オフィスを実際に開設した際はすでに認知されている場合が多く、0から始めるセールスとは違うのです。一方、日本企業の場合はオフィスが開設されるまでコミュニケーションされていないケースが多く、まずは会社の名前を知ってもらうところからのセールス活動になるわけです」

認知度向上のために、ストーリーテリングを活用した戦略的コミュニケーションを提案

−そこで、御社の役割が生きてくるわけですね?
齋氏「これは、文化の違いも多いに関わってくるのですが、ドイツの企業はコミュニケーションのタッチポイントをいくつも用意してコミュニケーションを取れるように何年もかけてユーザーを育てていくやり方が一般化しています。私たちは日本の企業に対して、マーケティングプロモーションの軸になる『ストーリーデザイン』を活用した戦略的なコミュニケーション設計を行い、ドイツ市場への参入サポートを行っています。ストーリーを作り設計する上で、6つの構成要素(伝統、社風、ビジョン、強み、主役、役割)からストーリーを作ることが重要と考えています。たとえ、製品が変わったとしても企業ストーリーがしっかりして顧客自身の経験やニーズとマッチングさえ出来れば、理解してもらえると考えているのです。私たちは『ストーリーマッチング』と呼んでいますが、メッセージで使う言葉などの表現もドイツ人に何が響くのか?というのを考えながら組み立てていきます」

−これまでのお話を聞いていると、文化の違いなども含め日本の企業は欧州での信頼の築き方やコミュニケーションの重要性に気づいてない可能性はないでしょうか?
齋氏「とても考えられることで、こちらで開催される国際見本市で日本の企業が出展して製品PRなどを行うのですが、日本のメディアから取材をされている光景を見かけることがあります。それらは日本のメディアでのみ流れることになるので、既に知名度のある日系企業以外はほとんどドイツで認知されることがないのが実情です。また、ドイツで開催される日独企業向けのイベント等では、日本人・日系企業同士での交流が多い印象を受けます。これは、ビジネス上の信頼関係の築き方が日本とドイツでは異なるからかもしれません。ドイツ市場においては、その企業が『何を売っているのか』ということよりも、どのような企業なのか、ドイツや欧州へ進出する意義や今後のビジョンは何か、などといった企業独自のストーリーへの共感を通して信頼関係を築いていきます。現地企業とのコミュニケーションは困難も多く時間も掛かると思いますが、企業のストーリーを軸に、誰に、どのような方法で、どのような情報を届けるのか、という活動一つ一つを戦略的に設計する必要があると思います」

編集部の視点
多くの日系企業がヨーロッパ進出で現地にて奮闘しているのは見て取れるが、やはり文化の違いによる壁を越えるのはとても厳しいようだ。そうした中でも一つのマーケティング概念である「ストーリーテリング」に関しては、理論立てて組み立てることはできる。様々な壁を越えるためにもモノゴトを体系立て、ストーリーづくりを行うところから始めてみると見えてくるものがあるのではないか。

ビョルン・アイヒシュテット Bjoern Eichstaedt
Storymaker
代表取締役
ドイツ・デュッセルドルフ出身。大学時代は生物学を専攻し、在学中にフリーのジャーナリストの経験を積む。2001年に当時設立されたばかりのStorymakerにジョイン、以来18年間企業ストーリーに着目しテクノロジー企業の支援を行っている。PRやストーリーデザインに関するセミナーやスピーカーとしての講演経験も豊富で、京都工芸繊維大学スタートアップサマースクール講師も務めている。幼少期からアニメやゲーム、映画を通じて日本への強い関心を持っており、「テクノロジー支援×日本への関心」という自身の背景から2013年に日本事業を開始。それ以来、パナソニックやリクルートを顧客とし、さらに日本とドイツの架け橋になるよう活動を進めている。

齋 直杜 Naoto Sai
Storymaker
ジュニアコンサルタント
埼玉県さいたま市出身。新潟大学大学院・自然科学研究科卒。大学院ではMEMSの研究室に所属し水晶振動子を用いた匂いセンサの研究に従事。大学院を卒業後渡独、ストーリーメーカーにて就職。ミュンヘン日本人会での講演経験などもあり、現在は日本事業開発者兼コンサルタントとして日独の架け橋になるよう奮闘中。ドイツ在住歴3年。
<Storymaker website: https://jp.storymaker.de/>