クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.29
エンタメ
2017.11.16

02 「西日本最大級」野外音楽イベントINAZUMA ROCK FES を支える制作者たち


イナズマロックフェス
9月のシルバーウィークに滋賀県草津市の烏丸半島で開催されるフェス・イベント。有料エリア、無料エリアに合わせて3つのステージが組まれ構成される。メジャーアーティストが出演する「雷神ステージ」(有料エリア)、雷神ステージを目指す、ブレイク目前のアーティストが出演する「風神ステージ」(無料エリア)。ファミリーで楽しめるご当地キャラ中心の「龍神ステージ」(無料エリア)のほか、無料エリアに「キッズエリア」「フードコート」「物販ブース」「滋賀観光ブース」その他、協賛社の出展ブースなどが設けられている。
1月:開催日発表 ⇒ 3月:出演者第1弾発表 ⇒ 4月〜7月:関連イベント開催 ⇒ 8月:チケット一般発売開始 ⇒ 9月:イベント開催


ブレない「哲学」があるから続けられる
今年9回目を迎えるイナズマロック フェスの実行委員会メンバーの多くは、開催当初より携わっている。更にさかのぼって西川貴教がデビューした当時からスタッフとして携わっている人間もいる。そんな旧知の仲間たちが、イナズマロック フェスを続けられる理由について話してくれた。
高岡氏「イナズマってちょっと変わったイベントかもしれません。というのも昨今『フェス』という形態のイベントが増えていますが、テレビのにおいがするアーティストが出演するフェスってなかなかないんです。ワンマンツアーをしているアーティストが無料のステージに出演しているのは単純に凄いことですし。フリーエリアを楽しみに来てくださるお客様が多いこともあって、2日間で10万人を動員出来ているんだと思います。会場のある草津市はこの10年くらいでベットタウンとして発展している街です。そういったこともあり、ファミリー層が気軽に出かけられるフリーエリアを充実させるなど、地域に根ざした動きが出来ていることも要因としては大きいと思います」
行貝氏「このフェスを大阪や東京でやっていたら、もしかすると淘汰されていたかもしれないです。ブレない何か、そこには、哲学があるんだと思いますね。もともと西川さんは、自分が絡まなくてもイベントが成立するものにしたいと考えていて、彼の故郷への想いがこのイベントを成り立たせている。そのビジョンを、どうやってビジネスとして成立させるのか。決して言葉にしなくてもブレない哲学が、運営に携わる人間のそれぞれの頭の中にあるんだと思います。それが、年々色濃く刷り込まれているから続けていけるのかもしれません。もちろん、ビジネスとして関わっている我々は、利益を出さなければいけないというのもありますが、哲学の方が先行しているのは事実です。『なるほどね』と言える必然性のあるピースをいくつ揃えられるのかがポイント。西川さんがブレない哲学を持っているので、そこに人が集まってくるというのが大きいですね」


地域を巻き込んで良好な関係づくりへ
イナズマロックフェスの特徴のひとつとして、行政や、そこに住む地域の人たちとの深い関係性づくりがある。良好な関係が築けているからこそ長く続けられるのだろう。その秘訣を探ってみたい。
高岡氏「テレビに出ていて誰が見てもわかるような人を1、2組アサインするんです。“おっ”と言われるような人をアサインすることで、『滋賀に有名人が来てくれるイベント』という印象を持ってもらえているように思います。あと、地元ならではの“特別”なプレミアム感をお届けすることも大切です」
石井氏「イベント前日には毎年、近くに住む小学6年生の会場見学を受け入れています。ステージを組み上げていく過程や会場づくり、そこで働くスタッフの役割を私どもが説明をしながらイベントの裏側を見てもらうのですが、これがとても喜ばれているようで、地元の小学生の特権になっています。見学の最後には西川と対面する時間を設けて、直接質問してもらったり、一緒に記念撮影をしたりするのですが、そのことを家に帰ってからご家族の方に話をしてくれるようです」
高岡氏「毎年開催日が決まってから地元説明会に行くと、年配の方も『俺の孫が嬉しそうに話すから』と言って、騒音も気になるであろうに、イベントへの理解を示してくださいます」
石井氏「それから西川は事あるごとに滋賀へ足を運んで、地元との関係づくりを大切にしています。エフエム滋賀『イナズマロックレディオ(5〜9月の毎週金曜日放送)』への出演や、毎年7月1日に行われる琵琶湖の清掃活動にも参加しています」

来場者へ最大限の配慮を
毎年、進化しながらも屋外で行うイベントである以上、天候に恵まれない年も出てくる。昨年は、まさに悪天候に見舞われた。イベントの途中で中止しなければならない判断、そこから得たものは何だったのか。
行貝氏「昨年、天候の動きを見ているなかで、中止の決断をしてもらうために西川さんに状況説明に行ったんです。ちょうど自身の出番前で、ステージ裏でダンスの練習をしていました。中止について伝えた時のなんとも言えない表情は忘れられないですね。『中止しなきゃいけないけれどしたくない。どうしたら良いか』というような葛藤だったと思います。ただ、決定せざるを得ない状況でしたから、決定したあとは『俺が説明する』と前に出て発表してくれました」
高岡氏「これまでも僕自身色々なイベントに携わってきましたが、昨年のような中止はなかなかないですね。ただ、昨年の経験があったことで、これまで考えたことのないことまで考えるようになりました。例えば『情報をお客様の耳にいかに正確に届けるか?』SNSは発達して共有しやすい時代ですが、悪天候ではトランシーバーさえも使えなくなることがある。情報共有の仕方に関して、改めて考え直しました。“もしも”を、気を張って考えることが、大切だと改めて感じています」
近年、気象状況や不足の事態にどのように応じるのかといった主催者側の体制を含めて、社会的責任が大きくなっているということ。昨年の経験を経てからの今年、運営側がもっとも注意を払ったことは「異常気象時の来場者の避難誘導」。昨年の中止経験から、もしものケースを「もしも」と捉えずに慎重に考える姿勢を徹底したという。


イナズマロック フェス2016 リターンズ決定プロセス
行貝氏「昨年、3組を残して中止してしまったことで、実行委員会全体に『終わった感じがしない』空気と、やりきれないもどかしさがあって、何かしらの形でもう1回やろうと立ち上がったんです。ただ、どのような形で完成形にするのかのお互いのイメージを合わせる作業に時間はかかりました。パフォーマンスできなかった3組に出演してもらおうということは決まっていましたが、日程を合わせての出演交渉のハードル、入場方法はどうするのがベストか、会場をどこにするかなど、多くの課題がありました」
石井氏「多忙な3組のスケジュールを合わせることは困難な作業でした。ただ、もともと西川はたとえT.M.Revolution1アーティストだけになったとしても代替公演をやろうとしていましたので、とにかく公演の実施だけはしようと。会場や日程についても何がベストなのかを探りながらあらゆる想定をしましたが、いつものイナズマと同じ烏丸半島でやることに意   味がある、と一番こだわったのは西川自身です。それが今回の『2016リターンズ』、「この場所へみんなで帰ってくるんだ」という西川の思いがこのタイトルに表れていると思います。2017年なのに2016の年号を入れる   ことで分かりづらくなるのでは   という意見もあったのですが、『2016年は終わっていない』と、そのワードに最後までこだわったのも西川でした」
行貝氏「リターンズの実現に向けてすごいエネルギーが高まりつつも、実行委員会のメンバーはそれぞれ会社に属しているので、各社の上層部へ説明責任もあって大変でした。『無料公演』のコストをどう飲み込むのか。そのコストを飲み込んだとしても、利益を出して来年続けることが出来るのか。そのあたりは課題でした。とにかくお互いに納得のいくまでとことん話し合いました。イナズマの会議はついつい長くなりがちです」