クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.24
特集
2017.06.14

【落合陽一】#02_日本のスロースタンプラリー文化を10倍速にする方法

落合陽一 論 THE「エモい」コンセプチュアル思考でエモーショナルを分析する
落合陽一

以前よりBTLでは、日本企業の「スタンプラリー文化」に起因する意思決定スピードの遅さを、課題のひとつとして取り上げてきた。これに限らず企業文化として根付いているあらゆる事柄は、今後どうなっていくのか。落合氏は近代と現代の比較と見直し、画一化された人々の働き方をコンピュータによってパーソナライズ化することが現代社会において必要だと提言する。

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近代社会になるために規格された「画一化」を脱するには

一般的に、近代社会と現代社会の境目は、戦前か戦後かという分け方をするだろう。落合氏は、近代と現代の社会の仕組みに関する違いを本質的に理解し、見直していくことが必要だと言う。
落合氏「僕が今、気になっているのが江戸とインド。どちらもGDPがとても低いことから近代以前の都市として例えるのに分かりやすいんです。江戸は長期独裁政権で、以前のインドは本当にGDPが低い社会でした。近代では、あらゆるものが画一化されてきましたが、現代においてそうしなくてもやっていけるようになるのがコンピュテーショナル(コンピュータによる計算、分析、処理すること)だと考えています。人々の多様性を維持しながら画一化しない方法についてすごく興味があって、それがコンピュテーショナルダイバーシティなんです」


コンピュータが得意な仕事を人間が手放す時期に来ている

そこで、近代社会における画一化された人々の働き方を、近代以前より何が変化したのか振り返る。
落合氏「『ワークライフバランス』は、ワークがライフを引き出し、ライフがあってこそワークが得られるという考え方です。この意味合いは、近代における労働単位のことしか考えていないように思うんです。労働単位とは人々が時間によって細分化された時に、その人が生み出す仕事量のことです。マルクスの考え方は、スコラ哲学に影響を受けていて、時間こそが人々が与えられた唯一のリソースであるという考え方に基づいています。そしてGDPを上げるために必要なのが、人々をタイムマネジメントすることだったんです」
しかし、タイムマネジメントは昨今の社会構造の課題に適したワードではないと言う。
落合氏「戦後の日本では『脱近代』したと言ってますが、全く脱していないように感じますよね。近代社会のタイムマネジメントに対して、現代は本質的にストレスマネジメントの問題になっているからです。例えば、1日19時間働いてストレスを感じない人がいれば、1日10時間働いて過労になる人もいます。その原因はストレスであってタイムマネジメントの問題ではないんです」
そして落合氏は教育現場にいるからこそ、社会で必要なスキルとのギャップ、更にはコンピュータが得意なことを教育しようとしている矛盾について問う。
落合氏「今の現代教育といのは、タイムマネジメントと共同作業のための手順を学ぶため、問題が提示された時の解決方法を習得していきます。しかし、そういった能力はコンピュータの方が得意とするところで、品質を揃えて均一化し、その中から最適化を施すというものです。コンピュータは、人間が寝ている中でも24時間動いていられるわけですから、どう考えても勝てない。そうなった時には機械にはできないスキルを身につける必要が出てきますね」


人工知能とは「パーソナライズされたテクノロジー」である

落合氏は、近代社会を見直した後に導かれる明確なもの、それが「人工知能(コンピュテーション)」であると話す。
落合氏「近代を脱するために必要だったものは、明らかにコンピュータでした。人の手を借りない生産体制と共通プロトコルを用いずとも共感される。近代というものがどう成立されたかというと、それはクラフトマンシップ(職人が手でつくること)からマスデザインに変わったことが大きな変化だと言われています。デザインとは、大量生産するなかでクオリティを下げないものです。そして19世紀後半からもたらしたものは映像かマスか。これからは、それらをどうやってパーソナライズ(一人一人の行動に対して最適化するもの)していくか。それを一言で言うと人工知能で、『パーソナライズされたテクノロジー』ということです。それをコンピュテーショナルにやることで人の実働時間を必要とせず解決できるため、人はそれぞれ多様な社会に生きることができるようになるんだと考えています」


今は現代ではなく「ポスト近代」社会ではないか?

本当の意味で近代を脱し、本質的な現代となるために必要な考え方とはどのようなものか。
落合氏「今、コンピュータ上の翻訳機はすごい進化を遂げています。我々の母国語が何語であっても、異なる母国語の人と意思疎通ができるようになるまで2年切っているように思います。そういった社会において今、見直す必要があるのが近代と現代を比較するということなんです。現代は明らかにコンピュテーショナル。近代ではわざわざ人々を『画一化』させようとしていました。すなわち、今まではポスト近代社会であって現代社会ではないということです」


企業の意思決定スピードを10倍上げるコツ

落合氏は、大学で多くの学生と研究を行っている。その中で心がけていることは、自分が負える責任範囲の中で学生に権限と責任を同時に譲渡していることだと言う。
落合氏「未来の発展のためには、若い人に権限を渡すことを考えるのが必要だと思うんです。同時に責任を課すことも重要です。日本企業独特のスタンプラリー文化は、時間の掛け方に意味がないですよね。必要なのであれば、LINEのスタンプを押せるスタイルにすれば良いのにと思います。スマホの『Touch ID(※1)』のように本人認証の仕組みを入れるだけで、意思決定スピードは10倍上がると思うんです」
今の時代、スマホの銀行アプリですらスタンプ送信で口座の残高確認ができる。企業の意思決定スピードの高速化は、「現代」になれるかどうかの大きな分岐点となるだろう。

(※1)アップルが開発した指紋認識機能

Profile

落合陽一 論 THE「エモい」コンセプチュアル思考でエモーショナルを分析する
落合陽一
落合陽一
1987年生、2015年東京大学学際情報学府博士課程修了、2015年より筑波大学図書館情報メディア系助教デジタルネイチャー研究室主宰。専門はCGH、HCI、VR、視覚聴覚触覚ディスプレイ、デジタルファブリケーション。著書に『魔法の世紀(Planets)』など。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015,2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica, EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeを受賞。2016年末から2017年まで自身初となる大規模個展『Image and Matter: Cyber Arts towards Digital Nature』をマレーシア・クアラルンプールで開催した。