クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.25
特集
2017.07.14

02 プロジェクト成功へ導く大手テレビ局の意思決定プロセス

エンターテインメントというビジネスを解剖する
阿部サダヲ

ステージアラウンドは、オランダ・アムステルダムに続いてロンドンで建築が進んでいた。しかし、先行していたロンドンよりも日本が先に完成したことで、世界で2番目の劇場となった。構想から完成までのプロセスと、プロジェクトに関わる人の意思決定、そしてエンターテインメントのビジネスの考え方について迫る。



新ビジネスとして成立させるための「コンテンツ案」

ステージアラウンドを日本に作ろうとしたそもそものきっかけは何だったのか。
吉田氏「2011年末頃にオランダの劇場を見てとても感動して、『こういうのを日本の皆さんにもお見せしたい』というのが原点になります。今回、日本の劇場もオランダのステージアラウンドを立ち上げたプロデューサー ロビン・デ・レヴィータを中心に作り上げてい ったのです。オランダは約1100席ですが、日本は1314席。キャパシティも少し大きくなり、客席が動く劇場としての安全性もさらに高めた進化バージョンを作ることができました」
ハード面に求めるクオリティと同時にソフト面(コンテンツ)も、新しい挑戦が求められることになる。
吉田氏「これまでにない劇場を真っさらな状態から作るということで相当な費用もかかりますし、会社として大プロジェクトの発足でした。建てる場所、建設会社、設計などハード面でクリアしなければいけないことと同時に、コンテンツ面に関してもすごく考えました。普通の舞台演目をそのままやるわけではなく、これまでにない演出に向けて果敢に挑戦出来る劇団でなくてはならない。更に、ビジネスとしても成立する必要があるので、多くのお客様に来ていただかなければなりません。目標が高いものになると考えた時に、日本においてクリエイティブも集客力もとてもパワーのある『劇団☆新感線』にやっていただくのがベストだろうという結論が出てお声がけしたのです」
そして演目は、劇団☆新感線の代表作が選ばれることになる。
吉田氏「劇場の真ん中に客席があって、それを囲むように舞台がある。大きなスクリーンもあって、客席が回転しながらスクリーンにも映像が映し出され、舞台のスケールは変幻自在でダイナミックに演出が出来る。そういった劇場の特色を活かしてもらえるのが劇団☆新感線だなと、もともと思っていたのですが、その中でも『髑髏城の七人』は劇団にとっても看板になる演目でもあり候補に挙がりました」


経費調整しつつ最大化する演出への取り組み

こけら落としとして『髑髏城の七人』が選ばれ、1年3ヶ月にわたり上演。同じ演目で同じ舞台セットを使っていくメリット、長期間においても観客にとっての新鮮さや驚きの担保をするために考えられた施策は、ビジネスとして成立するものであった。
吉田氏「経費面としては、同じ舞台セットを長い期間使えるようにすることが、費用を抑えることにつながります。しかし、お客様に何度も来て欲しい。そうなるとキャストを変えながら、彼らが一番活きる演出や脚本を作っていきたい。ビジネスとしても成立し、お客様に対してもたくさんの楽しみを提供できるにはどうすればよいかを考えました。同じ舞台セットで同じ演目となる『髑髏城の七人』だけれど、『こんなに違うんだ』とか『こんなに別の楽しみ方があるんだ』と感じてもらえる、一回観たからいいやとはならないものになっていくことを考えています」


プロジェクト実行における意思決定プロセスにある共通事項

ステージアラウンドは世界的に見ても新しいエンターテインメントの考え方であり、それゆえに未知な要素が多い。最初の構想から完成までのプロジェクト実行における企業姿勢、また意思決定プロセスについて伺った。
吉田氏「最初にやろうとなってから、ここに辿りつくまでに全部がスムーズに進んできたわけではなく、印鑑をいっぱい押さなきゃいけない、会議を通過しなければいけないなど沢山ありました。ただ実現するにあたり、心の底には期待もありました。それは『面白い、感動する、あっと驚く』エンターテインメントを届けたいというのが会社全体のDNAだということです。そういった思いで上層部へ強く訴えかけた結果、みんなの気持ちが一つになって出来たのだと思っています」


日本人の仕事における緻密さが、世界で2番目を実現

大きなプロジェクトを動かすための意思決定力の高さもさることながら、スケジュール目標のコミットメント力の高さもうかがえる。
吉田氏「実は、日本よりも先にロンドンの劇場がオープンする予定でした。結局、ロンドンは計画がどんどん遅れて、結果的に日本が追い越して世界で2番目の完成になったのですが、ロビンと話した時『日本人は本当にすごい』と言われたのです。それは、関わる全ての人がきちんと予定通りに、高い完成度で仕事を進行していることに対してでした」



Profile

エンターテインメントというビジネスを解剖する
阿部サダヲ
阿部サダヲ
1992年の舞台「冬の皮」より大人計画に参加。同年にはTVドラマ初出演も果たす。舞台、ドラマ、映画と幅広いフィールドで、コミカルな作品からシリアスな作品まで幅広く活躍している。07年には映画「舞妓 Haaaan!!!」で初主演を飾り、第 31 回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。11 年には民放ドラマ初主演となった「マルモのおきて」(CX)が社会的現象になるほどの人気を博した。また、パンクコントバンド “グループ魂”のボーカル・破壊としても活動している。近年の主な出演作に【ドラマ】「下剋上受験」 (17・TBS)、「おんな城主 直虎」(17・NHK)【映画】「殿、利息でござる!」(16)、「ジヌよさらば〜かむろば村へ〜」(15)、「寄生獣」シリーズ (14-15)、【舞台】「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」「逆鱗」(16)、 「八犬伝」「シダの群れ 第三弾 港の女歌手編」(13)など。劇団☆新感線には本作が4作目の参加となる。