クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.27
特集
2017.09.15

part1 03 『スペキュラティブデザイン』で未来を創造する

AI特集
スプツニ子!

part1 03
『スペキュラティブデザイン』で未来を創造する


未来のあり方を『スペキュラティブデザイン』で問う

「良い未来」はひとつではなく、人によってそれぞれ違う「良い未来」が存在する。理想の未来像がシンプルでないからこそ、問題提起は大事とスプツニ子!は語る。
スプツニ子!「私たちの生活の在り方、社会の仕組み、価値観やコミュニケーションが変わっていく中で『こんな未来の姿もあるけれどあなたはどう考える?』と多くの問いを投げかける事は大事になってくると思います。テクノロジーの進歩は、社会的・政治的・宗教的な背景にとても左右されています。例えば、女性の権利や人生への影響が大きい低容量ピルは、日本で承認されるのに9年以上もかかり、国連加盟国の中で一番遅かった。しかし、男性の性生活を変えるバイアグラが出てきた時は100人以上の死亡例が確認されていたにも関わらず、たったの半年でスピード承認されました(笑)。技術革新が私たちの生活に大きな影響を与えるものだからこそ、どういったテクノロジーが承認されたり規制されたりするかを議論する場に、多様な声が反映されるのはとても大事だと思います。デザイン・フィクション研究室の学生たちは、そういった意識を持って作品を制作しています」



「アーティスト」だからこそタブーを超えられる

第三回瀬戸内国際芸術祭2016で発表した『運命の赤い糸をつむぐ蚕  たまきの恋』(※1)は、遺伝子組換え蚕を題材にしたストーリーが話題を呼んだが、スプツニ子!にとって作品づくりにおける真意はどこにあったのか。
スプツニ子!「宗教とバイオテクノロジーの関係性について興味があって、この作品のリサーチを始めました。キリスト教信仰が根強いアメリカで仕事をしていると、遺伝子組換え等のバイオテクノロジーはタブーに見られ、神への冒涜だという反発が起きやすいのですが、私が子供の頃から慣れ親しんできた日本の神社やお寺の視点から科学を見るとどういう捉え方ができるかな、と考えて色々調べ始めたんです」
スプツニ子!の作品は、遺伝子組換えなどの先端技術も自由にアートに取り込んでいく所が特徴的である。
スプツニ子!「つくば市にある農研機構という研究所とコラボレーションしたのですが、そこの研究者たちは蚕の遺伝子を組換えて様々なシルクを作り出す技術を開発していました。彼らと話している中で、赤色蛍光タンパク質(RFP)をつくるサンゴ由来の遺伝子と、『オキシトシン』という愛情ホルモンをつくる遺伝子を蚕に入れることで、『運命の赤い糸をはく蚕』を作れないか?というアイデアが出ました。最初は半分、夢物語のようなイメージで話していたんですが、実際にその数ヶ月後、オキシトシンを含んだ赤い糸をはく蚕を遺伝子組換えで作る事に成功したんです。糸がオキシトシンを含んでいるからといって恋に落ちるわけではないので、あくまでも象徴的な生物ですが、これまで神話の中でしか存在しなかったような生物が科学の力で生み出せるようになっている。そういった事実を、この作品で提示したかったんです」

(※1)『運命の赤い糸をつむぐ蚕   たまきの恋』主人公の豊田たまきは、自らの恋を叶えるために『運命の赤い糸をはく蚕』を生み出し、その赤い糸を身にまとって片思いの相手に会いにいく。しかし、その過程で予想外のことが起き始め・・・。




当たり前になるということ

今、当たり前でないことも時代の変化とともに当たり前のことになっていく。スプツニ子!のアーティストとしての核は、そういった時代の変化を読んで表現するところにあるのではないか。
スプツニ子!「神社って、伝統的に見えてその時代のテクノロジーと共に進化してきているんですよ。例えば一般的に販売されている交通安全のお守りをみても、100年前まで日本に車はなかったけど、今はどの神社でも普通にお守りが売られていますよね。それに神田明神はIT情報安全祈願というお守りを販売していて、そのお守りはコンピュータをウィルスやクラッシュから守ってくれるそうです(笑)。そこで遺伝子組換えでつくった『運命の赤い糸をはく蚕』の話を神社の方にしてみたら『面白いね。むしろその糸で縁結びのお守りをつくらない?』と逆に提案されちゃって、彼らのテクノロジーに対する寛容さに良い意味でびっくりしました(笑)。そういったリサーチをもとに、『未来の神話を創る』というコンセプトで『遺伝子工学研究者の豊田タマキが先輩に恋をして、自らの恋を叶えるために運命の赤い糸を創り出す』というショートフィルムをつくりました。瀬戸内の豊島にその映像を展示した縁結び神社をつくり、そこでは実際にお守りやおみくじ、絵馬も販売しています。昨年にオープンしてから、本当に多くの人が豊島まで観に来てくれました」

車もコンピュータも人間が作ったものである。いつの時代も新しいテクノロジーが出てくる時には、夢と脅威を行き来する。何故そうなるのかは、その新しい事象における「技術」を知っているのか知らないのかによって分かれるから。全ての技術を理解したとしても諸々の判断を下すことはとても難しい。そんなとき、スプツニ子!のようにアーティストが「アート」として人々の感性に訴えかけることで未来想像を促す。車やコンピュータは、今では現実に当たり前のものとして人間と共存している。おそらくAIに関しても2045年に人間を超えるのではなく、人間の知能と共に進化し経済を引っぱるものになるのではないか。まずは「AI」というものを正しく理解することから始まる。

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スプツニ子!
スプツニ子!
テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた映像、音楽、写真、パフォーマンス作品を制作。最近の主な展覧会に、「第3回瀬戸内国際芸術祭」(ベネッセ アートサイト常設作品2016)など。2013年よりマサチューセッツ工科大学(MIT) メディアラボ 助教に就任し Design Fiction 研究室を創設。2016年第11回「ロレアル- ユネスコ女性科学者日本特別賞」受賞。2016年4月~NHK「スーパープレゼンテーション」のMCを務める。著書「はみだす力」(宝島社)。