クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.32
特集
2018.02.16

02 Concept of Happiness Anish Kapoor’s outline of collapse

デザイナーの役割とデザインを考える
長嶋 りかこ

インディペンデント・キュレーターとして数多くの展覧会をプロデュースする飯田高誉。長嶋とはいくつかの仕事を一緒にしているパートナー的存在。今回のカプーア展の象徴となった長嶋のインスタレーション、依頼の背景や企画について伺った。



インディペンデント・キュレーター/飯田 高誉
東京大学総合研究博物館小石川分館にて現代美術シリーズ(マーク・ダイオン、杉本博司、森万里子展)を連続企画。カルティエ現代美術財団(パリ)にてゲスト・キュレーション(杉本博司展、横尾忠則展)。「戦争と芸術—美の恐怖と幻影Ⅰ~Ⅳ」展(京都造形芸術大学)シリーズ企画。コムデギャルソンの川久保玲の依頼によりアートスペース“Six”にて連続企画(草間彌生/橫尾忠則/デヴィッド・リンチ/森山大道/宮島達男/中平卓馬など)。京都造形芸術大学国際藝術研究センター所長、慶應義塾大学グローバルセキュリティ講座の講師などを務め、青森県立美術館美術統括監を経て、現在、インディペンデント・キュレーター 森美術館理事を務める。


現代社会とストリートと隣あわせの環境を生かす空間
表参道に面する『うずまき』という意味を持つファッションビルEYE of GYRE。館内の一角にあるアートスペースで、ストリートと美術が接続できる場所となることを意識的に企画し、現代美術家アニッシュ・カプーアの「コンセプト・オブ・ハピネス アニッシュ・カプーアの崩壊概論」を開催した。
飯田氏「今回のカプーアの作品は、自らの今までの作家活動に対するチャレンジングな新シリーズです。日本で知られている鏡面仕上げの美しい彫刻作品のイメージを払拭したものです。そのカプーアの挑戦をロンドンのアトリエで目の当たりにし、その後、何度か彼のアトリエに通い、GYREというストリートと直結するファッションビルで開催する意味を提案しました。カプーアにとってもファッションと生活空間、そして表参道、原宿といったストリートと隣り合わせのアート空間に対して強い関心を示し、むしろ展示空間に留まらず館全体にアーティスト自らの作品精神を循環させることを望みました」
そんなカプーアの意を受け、GYRE全体とカプーアの作品精神を対話させる、各フロアをつなぐ媒体としてインスタレーションの制作を構想。作品の解釈力、作家の精神性をひきつけるデザインとして形にできる長嶋が選ばれた。


ローマで出会ったカプーア、感じたことをインスタレーションに
長嶋はたまたま訪れたローマにてカプーアの今シリーズと出会ったという。
長嶋氏「今までの鏡面仕上げの工業的なイメージと違い、今回のカプーアは原始的で有機的な形だったためか、彼の精神性を荒々しく感じることができ、深く心に残っていました。私たちの日常では、幸福には不幸、生には死、美しさには醜さ、善には悪、光には陰といった相反する事象を、目の前では片方だけを認識します。しかしカプーアの作品からは、すべての事象が両義的に存在していることを露にし、痛烈に感じさせます」
そして、不幸、死、醜さ、悪、陰 など人間の性(さが)から目を背けずに受け止める存在として、子宮が脳裏に浮かんだという。現実を受け止め、答えを出すプロセスを、思考ではなく体現するというのが子宮。その存在そのものに神秘性を感じ、意識ではなく子宮という無意識が孕む混沌をかたちにした。直線的なビルの吹き抜けに赤く肉々しい曲線のインスタレーションは、カプーアへの敬意を払うオマージュとして生み出した。

Profile

デザイナーの役割とデザインを考える
長嶋 りかこ
長嶋 りかこ
グラフィックデザイナー。1980年生まれ。village®主宰。対象のコンセプトや思想の仲介となってその世界観と知覚情報をデザインする。既存の視点への問いや価値転換による気付きへの貢献を目的とし、特に環境/美術/福祉/文化等のフィールドと積極的に協働し活動する。これまでの仕事に、“都市と自然”をテーマに掲げた坂本龍一氏による「札幌国際芸術祭2014」、全盲の主人公の映画製作を追うドキュメント映画「ナイトクルージング」、被災県の子供達で編成された「東北ユースオーケストラ」、核を問う現代美術家宮島達男氏と共作「PEACE SHADOW PROJECT」、反原発運動でのYMOによるライブ音源「NO NUKES 2012」など。