クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.32
特集
2018.02.16

03 デザイナーは炭鉱のカナリアになりうる

デザイナーの役割とデザインを考える
長嶋 りかこ

デザイナーは炭鉱のカナリアになりうる
様々なツールを媒介として多様な情報に翻弄される現代社会。デザイン、アートが今の世の中で果たす役割は何か。
長嶋氏「アーティストはもちろん、デザイナーも、時代の中の当たり前に対して疑問を抱いたことがあれば、世に問いかけ知らしめる炭鉱のカナリアのような存在になりうると思うんです。単に依頼主のお望みのものを提示することは簡単なことで、それはこれまでの大量消費社会でデザイナーが重宝されながら実行してきたことでした。けれど本当に必要なものは何なのか、本質的なデザインというものを考えていかないと、いつまでたってもゴミは増え続けるし環境は破壊され続ける。いずれにしても何かを生むためにはどんなに気を遣ったとしても何かが破壊されて行くのだから、ゴミを出してでも伝えなければいけないこともあるのだとしたら、何に対してデザインを施すべきか。例えば今現在、原子力発電所のロゴマークをデザインしたいと思うデザイナーはいるでしょうか。それよりも再生可能なエネルギーに対しての活動にデザインで関わる方がどれだけ意義があるか。まずは自分自身がその活動に共感できることが大事だと思います。伝えるための手法はどうしても話題に上りやすいですが、その前にまず、なぜその活動があるのかを見つめる。自分の共感を受け手に伝わりやすくなるようにデザインで翻訳していくことが私の仕事かなと思います」


長嶋のデザインの対象物への向き合い方。それは小手先のデザインに走るのではなく、また伝える手法を磨くのではなく、伝えるべきことを忠実にデザインへ落としていくこと。それができるデザイナーは少ないと飯田は言う。
飯田氏「今は自我を肥大化していく時代ではありません。とても面白い時代、いろんなノイズ(情報)が入ってきて、ざわめきの強度にも負けず、変速するスピードの中、自分を見失わないようにどうしたらいいのか。そのような時代状況の中で、アート、デザイン、建築、ファッションなどの表現領域の役割は大きい。表現ジャンルを越えてすべて連動し、時代精神と対峙していくことが重要です。デザイナーの役割もそう。いつのまにかデザインってものが独り歩きしていって流行った時代もあったが今は違うのではないかと考えております。その割には今でもデザインに走り、自我を肥大化させるデザイナーばかり。だから時代精神とデザイナーの持っている精神が対峙していく結節点として長嶋さんのデザイナーとしての存在感が増していくのでしょう」

長嶋の手がけるデザインには意志を感じることができる。その意志とは、普段の生活において見えなくなっているもの、感じなくなったものを浮き立たせることなのかもしれない。
長嶋氏「私は、デザインがもたらすことは、目の前の常識を疑う、モノの見方を変える、といったことだと思っているんです」
パブリックとパーソナルの境目がなくなり、情報にあふれ、一個人がどの情報を信じて混沌とした世の中をサバイブしていくのか、そんな時にデザインの果たす役割とは、伝えたいことを世の中の動き、流れと連動し、見えないものを視覚的に伝え広げていくことかもしれない。

※炭鉱のカナリア:炭鉱においてしばしば発生するメタンや一酸化炭素といった窒息ガスや毒ガス早期発見のための警報として使用された。本種は常にさえずっているので、異常発生に先駆けまずは鳴き声が止む。つまり危険の察知を目と耳で確認できる所が重宝され、毒ガス検知に用いられている



ディーター・ラムスによる「良いデザイン」の十か条
Good design is innovative. :良いデザインは、革新的である。
Good design makes a product useful. :良いデザインは、製品を有用にする。
Good design is aesthetic. :良いデザインは、美的である。
Good design makes a product understandable. :良いデザインは、製品を分かりやすくする。
Good design is unobtrusive. :良い製品は、押し付けがましくない。
Good design is honest. :良いデザインは、誠実である。
Good design has longevity. :良い製品は、恒久的である。
Good design is consequent down to the last detail. :良いデザインは、あらゆる細部まで一貫している。
Good design is environmentally friendly. :良いデザインは、環境に優しい。
Good design is as little design as possible. :良いデザインは、できるだけ少なく。

Profile

デザイナーの役割とデザインを考える
長嶋 りかこ
長嶋 りかこ
グラフィックデザイナー。1980年生まれ。village®主宰。対象のコンセプトや思想の仲介となってその世界観と知覚情報をデザインする。既存の視点への問いや価値転換による気付きへの貢献を目的とし、特に環境/美術/福祉/文化等のフィールドと積極的に協働し活動する。これまでの仕事に、“都市と自然”をテーマに掲げた坂本龍一氏による「札幌国際芸術祭2014」、全盲の主人公の映画製作を追うドキュメント映画「ナイトクルージング」、被災県の子供達で編成された「東北ユースオーケストラ」、核を問う現代美術家宮島達男氏と共作「PEACE SHADOW PROJECT」、反原発運動でのYMOによるライブ音源「NO NUKES 2012」など。