クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.36
特集
2018.06.14

絵コンテは全て水彩画 一冊の企画書に込める想い

企画はおもてなし
森本 千絵


鮮やかな水彩画で描かれる企画書
車中から生まれたアイデアをアウトプットした企画書。森本氏の様々なコンペに提出された企画書を見せてもらった。
森本氏「私たち企画書に燃えてますからね」
実際にクライアントへ提出したという企画書の数々。内容の濃さに驚いた。厚さは1㎝ほどあるものが多く、中の絵は全て水彩画で描かれている。単なる企画書ではなく、立派な絵本のような完成度の高さだ。
森本氏「例えば、長澤まさみちゃんのAZULのCMの企画は太陽の姉AZと月の弟ULの二人やキャスト全員を設定しました。絵コンテは全て水彩で行います。これだけ水彩を使うってことは普通から考えると異常な行為。全部水彩で描くのは時間が必要です。ディテールも考えるし。普通のコンテだったら白のままでいいですが、水彩だと、その空が曇っているのか、晴れているのかまで考えなければいけないんです」
効率性を重視して作るのではなく、受け取った人に自分の想いが伝わるように手間と時間をかけて作られた企画書。当たり前のことだが、その手間をかけて作られるものこそが、相手の心に強く響く。

AZULのCM企画書

さらに、企画案。ページをめくるごとに様々な角度からの提案が続く。
森本氏「仕事によって違いますが、うちは他社の5倍は企画を提出していると思います。他が2案ならうちは10案。他が10案出すならうちは50案出します。いつもクライアントからは企画書のクオリティ、案の多さにびっくりされます(笑)」
例えば、松任谷由実の「宇宙図書館」のアートワークの企画書。普通のCDジャケットのデザイン事務所であれば2案ほど提出するのが普通とのことだが、森本氏の企画書はめくってもめくっても、森本氏の考える宇宙図書館とイメージした水彩で描かれたイラストが続いていく。
森本氏「宇宙図書館とは無限にある図書館なのか、宇宙図書館はどこにあるのか、どんなことをしているのか。入口はどうなっているのか。宇宙図書館はいつからなのか。宇宙図書館とはすぐそばにあるものなのか。これは全部私の言葉です。宇宙図書館とはこの世界と表裏一体なものなのか、宇宙図書館とはすでに見えているこの世界は錯覚であることと教えてくれるものなのか。宇宙図書館とはこの世界をそぎ落としたものなのか。宇宙図書館とは始まりと終わりが存在しないのか。まわり続けるものなのか。宇宙図書館とは時間と空間がゆがんでいるのか。宇宙図書館とは過去も未来もコラージュされているのか。遠い未来と昔も織り交ざったものなのか。宇宙図書館とはこの世界という1冊しかない本そして本しかない世界の境界線から開く本なのかという考え・・・」
一つのことに対して、数多くの案を提案する。こちらもセオリー通りではあるが、この当たり前のことをすべての仕事に対して行える人は少ない。一つ一つの仕事全てに時間と手をかけ、紡ぎだしていることが森本氏に多くの依頼が殺到する理由だと言えよう。

「宇宙図書館」アートワークの企画書

Profile

企画はおもてなし
森本 千絵
森本 千絵
株式会社goen°主宰。コミュニケーションディレクター・アートディレクター。武蔵野美術大学客員教授。1999年武蔵野美術大学卒業後、博報堂入社。ʼ06年史上最年少でADC会員となる。ʼ07年goen°設立。NHK大河ドラマ「江」、朝の連続テレビドラマ小説「てっぱん」「半分、⻘い。」のタイトルワークをはじめ、Canon、KIRINなどの企業広告、松任谷由実、Mr.Childrenのアートワーク、映画・舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐に渡る。11年サントリー「歌のリレー」でADCグランプリ初受賞。伊丹十三賞、日本建築学会賞、日経ウーマンオブザイヤー2012など多数受賞。