クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.36
特集
2018.06.14

制作に関わる全ての人に贈る旅のしおり

企画はおもてなし
森本 千絵


細胞が記憶する
企画書の最後のページには必ず森本氏のこの仕事に対する情熱、想いを伝える手紙がある。
森本氏「この手紙はすごく大事なんです。歌手の方はすごい感性なので、歌に影響も与えてしまうくらい。言葉は丁寧に選んで、ちゃんと思ったことを伝わるようにしています。言葉はとても大事。例えば、細胞は恐怖を記憶をすると聞いたことがあります。だから怖いものを見ると、物理的に記憶がなくても細胞は覚えていて、ふっと反応してしまうんですって。だから私は、トラウマになるようなものや、悲しい気持ちにするものは、どんな目的であろうと一切そういうデザインをするのはやめたんです。企画書もそう。クライアントさんの細胞に残るものだから、企画書がワクワクしないと特別なものにならない。お金をいただいて依頼していただいて、必死で社内で勝負をするのはその担当者さん。担当者さんが自信をもって最後まで行ける旅のしおりを作れるように、頑張っています」


企画を見せるだけの企画書を作るのではなく、その仕事への全身全霊の想いを込める。
森本氏「企画は自分の経験から出来ているもの。完全に0から1とは限らないですが、必ずどこにもないもの、本当に新しいものを提案したいと思っています。そして、その企画を受け取った誰もが後からゆっくり見直すことができる、おもてなしという配慮がされている企画書を作ります。企画は私にとっては全て。そして柔らかくて繊細なものなので、大切にくるんでお届けしたいと思います。さらに、企画を形にする制作現場においては何を伝えたいのかがはっきりと分かる企画書じゃないと、制作スタッフ全員に同じ意識、目的を共有できません。制作はバスの旅のよう。私は最初から最後まで乗っていますが、途中から乗る人、途中下車する人といて、毎回その途中参加のスタッフさんに同じことを説明するのは難しいです。だから、途中から来た人でも最初から一緒にいたくらいになれる企画書をスタッフ全員に渡します。普通は企画書を渡すことのないカメラのアシスタントさんや、照明部、小道具さんなど、私の現場では、オールスタッフ、たとえ、アルバイトの方でもクライアントに渡したものと全く同じ企画書を渡します」


制作に関わる全ての人に同じ旅のしおり(企画書)を渡すことで、現場は主体性に満ちたものになる。
森本氏「常にみんなが他人事にならない仕事にすることを大切にしています。周囲の人の思い入れを深くさせる作業に時間をかけます。そうすると、関わってくれている人たちは自分の仕事だと思って取り組んでくれて、自分から手離れしても皆が大切にしてくれて、助けてもらえるんです」
最後に、目の前にある仕事全てに全身全霊で挑む原動力は何か尋ねた。
森本氏「原動力は、プライドなのかな、結局。おせっかいなんです。どうせ関わるのならば、少しでも良くしたい、少し良くするのならば、もっともっと良くしたい。これでいいやと思えない。少しでも良いものに出会いたいっていう気持ちが人よりも強いのかもしれないですね」


Profile

企画はおもてなし
森本 千絵
森本 千絵
株式会社goen°主宰。コミュニケーションディレクター・アートディレクター。武蔵野美術大学客員教授。1999年武蔵野美術大学卒業後、博報堂入社。ʼ06年史上最年少でADC会員となる。ʼ07年goen°設立。NHK大河ドラマ「江」、朝の連続テレビドラマ小説「てっぱん」「半分、⻘い。」のタイトルワークをはじめ、Canon、KIRINなどの企業広告、松任谷由実、Mr.Childrenのアートワーク、映画・舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐に渡る。11年サントリー「歌のリレー」でADCグランプリ初受賞。伊丹十三賞、日本建築学会賞、日経ウーマンオブザイヤー2012など多数受賞。