クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.42
特集
2018.12.13

永山祐子「超高層」ビル建築への挑戦

「超高層」ビル建築への挑戦
建築家/永山祐子

永山祐子|「超高層」ビル建築への挑戦

2019年に着工、2022年に完成予定の「超高層」ビルが新宿歌舞伎町に出現する。新宿区内では都庁(243.4m)、新宿パークタワー(235m)に続いて新宿三井ビルディング(225m)と同じ高さになる見通しだ。この超高層ビルの外装デザインを手がけるのが、建築家永山祐子。男性的パワーを感じる超高層ビルを、永山氏はどのような思考で仕上げようとしているのか。ただ高いだけのビルではない、新宿におけるエンターテインメントとしての活気を呼び戻しつつ、繊細さも表現する構想とプロセスに迫る。

成功とは、関わった案件の「事業そのものがうまくいくこと」

歌舞伎町は、国内でも屈指の歓楽街。2014年末に閉館した「新宿TOKYU MILANO」の跡地を含む約4,600平方メートルの土地に225メートルの超高層ビルが2019年に着工する。このビルを手がけることになった建築家 永山氏へ、建築におけるコンセプト、そして永山氏だからこそ実現できる女性建築家としての視点について話を伺った。

永山氏「歌舞伎町の超高層ビルは、オフィスは一切入らず、映画館やライブホール、劇場、ホテル、レストランなどが入るエンターテインメントビルになります。ナイトライフの勢いが無くなった東京へ、再び夜の面白さを取り戻して、海外のお客様にも楽しんでもらえる魅力的な場所にしたいという想いがあります。このビルのイメージコンセプトは『噴水』です。歌舞伎町は、もともと沼地で弁天さまが祀られていたこともあって、の力が根底にあるのです。水は女性の象徴でもあることから、ビル自体を、柔らかい女性的な建物に仕上げたいなと思っています。『超高層』は昔から、ある意味権力の象徴であって男性的でパワーを感じさせるものが多い中、今回は柔らかく揺れ動くような形にしたいと考え、噴水が湧き出ているような外観を設計しました。全面ガラスにし、ガラスの反射を揺れ動く水の表現として使用したいと考えているのですが、特殊なガラスを使うため、ガラス製作だけで相当時間がかかります。また、西新宿の高層ビル郡とは離れているので、ビルのサラウンドとしての見え方も気にかけて設計しました」

 成功とは、関わった案件の「事業そのものがうまくいくこと」

永山氏が手がける大型の建築物は、多くの人が携わる。建築物のデザイン、設計を終えて実際の建築が始まると、現場のフェーズへと移る。建築に携わる多くの人たちを、どのようにして一つの方向へ導いていくのか。

永山氏建築における成功は、建物が出来上がることだけではなく、その先の事業そのものが上手くいくことこそが成功だと思います。『やってよかったよね』という思いを現場の一人一人にも思って欲しい。そこに行くまでに、関わっているみんなが『これだ』と思うポイントがいくつかあります。設計チーム内で設計の方向性が決まる瞬間や、施工者とディテールを詰めていく中、実現に向かって近づいていく瞬間など。チーム力が大切です。時には何千人という規模の人たちが一つのものに携わるわけですから、一緒に達成感を味わえることは、ナニモノにも代えがたいものです。そして出来上がったものが良ければ全てが正解、みんなが報われます。『事業が上手くいくこと』という最終的な目標を持って取り組むことが大事だと思っています」

ただ、永山氏もいきなりチームをまとめられるようになったわけではなかった。大学卒業後に4年間勤めた設計事務所での学びについて次のように語る。

永山氏「大学を卒業したと同時に、青木設計事務所へ入社しました。その時は、右も左も分からず『女子高生が来た』くらい世間知らずが入ってきたという状況だったと思います。社会で働くこと、建築そのものの考え方、全てを学ばせてもらったのが青木事務所だったと思っています。青木事務所に勤めていた頃、住宅のプロジェクトを一人で任されることが多かったので、『独立してもやっていけそう』と単純に考えていました。しかし、独立後に設計そのものをきちんと成立させながら、ビジネスとしての交渉、現場をまとめていくなど全てやらなければいけない状況となり、その時に重要な部分は青木さんがやってくれていたんだなと、独立してから分かったことでもあります」

永山祐子建築設計

「NO」を言える強さが人を成長させる

永山氏が独立してから手がけた世界的ハイブランドであるルイ・ヴィトン京都大丸店。ルイ・ヴィトンが古いトランクに使用していた“レイエ”というストライプパターンと、京都の縦格子、この重なる2 つのイメージから縦ストライプをファサードのパターンとして採用。どちらかというときらびやかな海外ブランドを京都文化へどのように融和させられたのか。永山氏のその手腕を紐解く。

LOUIS VUITTON 京都大丸店
LOUIS VUITTON 京都大丸店

永山氏「独立後、縁あって指名コンペに参加したのですが、それは大阪店でのコンペでした。5人の建築家がトライして、2名が残りました。最後、負けてしまってすごく悲しくて傷心旅行に出かけたりしていたのですが、しばらくして『京都で実現してほしい』という連絡が入ったのです。しかし、もともとは大阪の景観に合うファサードをデザインしていたので、京都の四条通りの景観にはそのファサードは合わないと思いメールを送りました。ただその代わりに、新しい案を作り直したいという内容も添えて。すごく驚かれましたが、その提案を受け入れてもらえたのです。また、ルイ・ヴィトンは世界中の店舗をアメリカ人の照明デザイナーが照明計画をしていました。その方が指定した照明器具が実は大きすぎて京都の店舗デザインにはとても合わない。そこで思い切って『新しい照明を作りたい』ということを申し入れました。きちんとテストして良い成果を見せることができ、結果的に『素晴らしい』と受け入れてもらうことができました。他にも世界で初めて建築に偏向板という光学フィルムを使いましたが、そのリスクに関してクライアントが理解を示してくれました。良いもの、チャレンジに対して寛容なのが印象的でした。分かってもらえれば、すんなり受け入れてもらえるのかなと思えるようになってから何事も臆せずに積極的に提案出来るようになれ、一つ壁を超えられたように思います。また、建築のプロセスですが、通常はイメージ設計、基本設計、実施(ディテール)設計、見積り、施工者決定、現場を管理する。というような流れで進んで行きます。特に大きなプロジェクトの場合、1分の1モックアップにコストをかける場合が多いです。ルイ・ヴィトンの時も相当の金額をかけてモックアップを作りました。そこで多くの設計の見直しをしました。どうしてもCGや小さい模型ではスケール感が違うことで見えないことも多いのです。当然ですが、最終の確認まで綿密に集中力を持って見ていかないと良いものは作れないですね」

永山氏は現在、自身の事務所を持つ。いくつものプロジェクトを同時に進行する必要が出てくるが、日々のインプットやスタッフとの共有など、どのようなやり方で行っているのか。

永山氏「机に向かってというより、移動中などふとした瞬間にインスピレーションが湧くことが多いです。色んな条件やシチュエーションを頭に入れておいて、日常の中で割と常に考えています。基本的に私は、プロジェクトごとに最初の方向性を作ってスタッフへ伝えるという役割になりますので、思いついたことはメモを取ったり、スケッチを描いて写メをしてSNSツールでスタッフへ送るというようなやり取りをチームの中で行っています。小さい子供達を育てながらの生活の中、今は全部の時間を効率的に使うことを考えています」

2020年開催ドバイ万博・日本館の設計を手がける

2020年東京オリンピックが開催された後、同年10月から翌年4月にかけてドバイ万博が開催される。その日本館の建築に永山氏が、公募で選ばれた。中東では初の万博ということでUAEでは非常に盛り上がりを見せているが、日本ではまだ知っている者は少ない。ドバイ万博の日本館建築プロジェクトを担う永山氏は、「中東という新しい文化の中で、自分の中の日本的な感覚がどう捉えられるのかを楽しみ」と話す。

ドバイ国際万博 日本館
ドバイ国際万博 日本館

求められるグローバルなジェネラリスト力

From the Editor in Chief

ビジネスタイムライン編集長 /倉本 麻衣

スペシャリストの対義語として使われるジェネラリスト。特定分野を専門とするスペシャリストに対してジェネラリストは、事業の推進などプロジェクト全体を俯瞰して課題や問題を発見し、解決しなければいけない立場。それは、往々にして答えのない問題に直面することが多く、過去の成功体験や知識だけでは解決できない場合がある。特に、昨今はビジネス環境の変化が著しく、インターネットなどのテクノロジー無くして前には進めないビジネスも増えていることで、社会全体が複雑化している。知識だけを持っても直面する課題や問題を解決できないのである。しかし、関わるビジネスシーンにおいて、最終的に何が大切なのか?何を目標とすることで解決策が出てくるのか?というのを一つの事例で考察したい。

永山氏は関わる案件の最終目標として「クライアントの事業そのものがうまくいくことが成功」ということを掲げている。

この思いからは、ビジョンや思想、志、技術、人間力などを包括する知性が感じられる。だからこそ、提案のなかでクリティカルな指摘を入れても、理想とする結果をイメージしての指摘であることが伝わり、受け容れられるのだろう。では、何故それが出来るのか。グローバルでビジネスシーンを俯瞰してみると、ミーティングの中で外国人から見た日本人は、「3S」というジョークで表現されることがある。それは「Silent(沈黙)」「Smiling(微笑)」「Sleeping(居眠り)」。つまり、日本人の「受け身」の姿勢を示している。受動的な姿勢で、新しいアイデアが生まれるわけでもなく、既にあるアイデアがブラッシュアップされるわけでもない。何かを生み出す時、アイデアを洗練させたい時、最終目標を共有しつつ専門性知識だけではないビジネス全体を俯瞰したうえでの解決策を提示していく。今、それにトライできるジェネラリスト力が問われている。

そして次号では、単身でヨーロッパに渡りドイツを拠点に活動を行うアーティストから、海外で活動するにあたりどのようなマインドとトライする力が必要なのかを特集したい。

次号:Vol.43【TAKUYA|ヨーロッパが舞台、和太鼓エバンジェリストの筋力】

Profile

「超高層」ビル建築への挑戦
建築家/永山祐子
建築家/永山祐子
1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「ANTEPRIMA」、 「カヤバ珈琲」、「SISII」、「木屋旅館」、「豊島横尾館(美術館)」、「渋谷西武AB館5F」、「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」など。ロレアル賞奨励賞、JCDデザイン賞奨励賞(2005)、AR Awards(UK)優秀賞(2006)「丘のあるいえ」、ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard(2012)、JIA新人賞(2014)「豊島横尾館」、山梨県建築文化賞、JCD Design Award銀賞(2017)、東京建築賞優秀賞(2018)「女神の森セントラルガーデン」など。