クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.43
特集
2018.12.14

ヨーロッパが舞台、 和太鼓エバンジェリストの筋力【TAKUYA】

ヨーロッパが舞台、和太鼓エバンジェリストの筋力
TAKUYA

衣装:阿部 美千代/hair styling:清水 茂浩
衣装:阿部 美千代/hair styling:清水 茂浩

世界は、日本人が思う以上に日本文化に敬意を払ってくれている。日本文化の面白さは、海外から入ってきたものを日本流にアレンジし、ブラッシュアップして昇華させる「生み変える力」にあるということは、BTLとして以前も触れた。日本文化の三道である茶道、華道、香道も、外から入ってきたものを日本文化へ昇華させたもの。和太鼓もまた、ルーツは海外から入ってきたものであるが、各地域で独自の進化を遂げつつ、日本文化の一つとして捉えられるようになった。日本人であれば、一度は耳にしたことのある和太鼓。その和太鼓に今、世界が夢中なのである。

現在ドイツ・ミュンヘンに拠点を置き、ヨーロッパを中心に活動しているタイコニストTAKUYA
渡独から7年、確かな手応えを感じながら「TAKUYAにしかできないこと、TAKUYAだからできること」を目指して今日もどこかでその音を轟かせる。

何故、和太鼓が世界で魅了されるのか。TAKUYAの活動から、その源泉に迫る。


01 心揺さぶる和太鼓の魅力

タイコニスト TAKUYA

和太鼓は、心臓の鼓動に近い

今回の取材は、日本での公演のためにTAKUYAが一時帰国した時のものである。何故、ヨーロッパを中心に公演オファーが続くのか。理由の一つとして、和太鼓そのものの魅力を次のように話す。

TAKUYA海外では和太鼓を見たことのない人も多く、『和太鼓って何?』から始まります。客席を見ると口が開いている人も居れば、音が大きくて会場から逃げ出してしまう人もいます。暗い中で大きな音が鳴るというのを恐怖に感じてしまう人もいる。海外の人には、それくらいインパクトがあるようです。演る側としてのやりがいは、緊張を孕んだ無音の中で『静寂を破る時』にあります。なんとも言えない不思議な緊張感のある空間を動かせるのは、太鼓打ちとしての醍醐味で、最初の1打は地球が誕生した時のような迫力が心にズシンと来るのです。無音の緊張感を創り上げるには、『日本の所作』というものが重要になります。ドイツやオーストリアなどでは、もともとクラシックが根付いているので、最初の溜めの緊張感と1打で静寂を破るという感覚を分かっているのですが、やはり和太鼓の音は大きいみたいでびっくりされます。ただ、和太鼓は基本的には牛の皮など自然のもので作られていて機械的な音ではないため、耳に負担はないのです。その音の成分は心臓の鼓動に似ていると言われていて、すごく大きな音にもかかわらず、聞いていくうちにだんだん気持ち良くなって寝ちゃう子供がいるくらいです。何となく心地よくなってくるのが太鼓の良さでもあり、僕も魅了された一人です

ヨーロッパで開花する和太鼓エンターテインメント

和太鼓のソリストとして活動を行うTAKUYA。具体的にどのような舞台創りをしているのか。

TAKUYA「2018年は、イタリア、フランス、オーストリア、ハンガリー、ドイツ、ルクセンブルク、ベルギーなど特にヨーロッパを中心に公演をしました。この年の1月、ドイツのケルン日本文化会館から『和太鼓だけで1時間演奏して欲しい』というオファーがありました。『和太鼓だけで1時間、しかもソロでどう演奏するの?』と思われる方も多いのですが、舞台上に太鼓セットや箏を置いて、日本の四季など一つのテーマでストーリーを創り、ラウンドしていく演出で演奏しました。自分で作詞作曲もしているので、その要素も組み入れ、も歌います。コンポニスト、そしてボーカリスト和太鼓奏者として舞台に立つのです。僕の師匠である林英哲氏は、もともと画家志望で、伊藤若冲藤田嗣治などがお好きなのですが、その画家達の人生観作品から受けた想いを、彼のフィルターを通して舞台を創っています。僕自身はに興味があります。人類が誕生した時、を発し、モノを打ち始めた事が音楽の原点だと思うのです。空気を振るわせ、遠くまで響く和太鼓の響きにのせて自分の声想いを伝えていきたい。そんな舞台創りをしています」

左:Festival dell’Oriente in Naples, Italy Photo by Anna Maria 14,15,16 Sep 2018
右:AniNite -METAStadt Wien Photo by 在オーストリア日本国大使館 02, Sep 2018
左:Festival dell’Oriente in Naples, Italy Photo by Anna Maria 14,15,16 Sep 2018
右:AniNite -METAStadt Wien Photo by 在オーストリア日本国大使館 02, Sep 2018

どの国にも打楽器文化がある

和太鼓は決して日本だけの文化ではない。
日本人ソリストがヨーロッパで和太鼓奏者として活動しているのは稀ではあるものの、和太鼓の良さは確実に、世界で認められている。その過程をTAKUYAは、海外という地でしっかりと感じ取っている。

TAKUYAドイツ人は、打楽器が好きなように感じます。ドイツのいろいろな地域に太鼓グループがあって、広がってきているようです。中には、和太鼓を自分で作ってしまうドイツ人もいらっしゃって、モノづくり精神が日本人と近いように思います。最近は、イタリアにも公演で行きますが、イタリアでの広がりはこれからという印象です。そしてバンド活動としては、WPEWorld Percussion Ensembleワールド・パーカッション・アンサンブル)に所属して和太鼓を担当しています。アフリカとブラジルのパーカッショニスト、ドイツ人のピアニスト、スロバキア人のベーシストというインターナショナルなメンバーで世界を回っています。国によってグルーブには違いがあり、和太鼓はインテンポでのリズムが多いのですが、それを他の国のグルーブで合わせたり、歌あり、踊りありの毎回、一期一会のライブを楽しんでいます。色々な国に行きますが、どの国にも打楽器があって素材や形は違えど、その音には人類の魂を揺さぶる普遍的な力があります」

02 日本人の「文化形成力」

TAKUYA

世襲制?それとも自由?和太鼓の立ち位置とは

和太鼓を「日本の伝統芸能」と解釈している日本人がほとんどではないか。
そう思われる所以が、和太鼓のルーツを辿っていくと分かってくる。

TAKUYA和太鼓と言うと、多くの人が『日本の伝統芸能』と思っていらっしゃると思いますが、どちらかと言うと、『民族芸能』の部類になります。太鼓のルーツを辿ると日本ではない国になるかもしれないのですが、和太鼓は日本の独自の文化で進化したものです。そして、それぞれの県にあって、それぞれに発展している芸能事なのです。そうした中で林英哲氏が、数十年前に日本の伝統にはなかった大太鼓の『正対構え打法(観客に背中を見せて打つ)』を創り出しました。ボストンマラソンを走った後、演出としてふんどし姿で腹筋を使った屋台囃子やたいばやし)という和太鼓の演目を打ったことがきっかけで、その存在が世界に知られることになりました。その時のプロデューサーが『日本版ビートルズを作りたい』ということで、和太鼓で世界に打って出たのです。ボストンマラソン後の公演には、小澤征爾さんも観客としてご覧になっていて、その後、今は亡き偉大な作曲家である石井眞木さんに作曲を依頼し『モノ・プリズム』︱日本太鼓とオーケストラのための協奏曲︱が誕生しました。世界初の試みで和太鼓に革命が起きた瞬間です。民族芸能だった和太鼓が、檜舞台へ押し上げられたのです。和太鼓の良さの本質を改めて伝えていくためにも、自分としては、これまでの歴史なども含めて土台をわかった上で、新しいものを組み立てていかないと説得力がないと思ってやっています。ドイツ人は日本の文化の深いところに興味を持ってくれて、演奏後には人が集まってきて『和太鼓について説明して欲しい』と言われることも多々あります。守っていかなければいけないものと、自由であるもののバランスを取ることが大事なのです」

TAKUYAオリジナルの「和太鼓ジャズ」

TAKUYA和太鼓を打ち始めて既に30年以上のキャリアを持つ。
その中で新しい音楽として和太鼓とジャズをミックスする。
一見すると遠そうな和太鼓とジャズ、しかしTAKUYAの中ではとても近い存在のようだ。その理由は、TAKUYAのルーツを知ることで紐解ける。

TAKUYA「太鼓は3歳の頃に始めました。きっかけはお茶碗を箸で叩いていたのを親が見て『行儀が悪い』からと、おもちゃの太鼓を買ってくれた事です。それが、小さいながら本物の和太鼓でした。福井県の地元では、天龍太鼓というグループがありまして、結婚式やお祝いの席などで演奏するのですが、基本的にお酒を飲める場所なので子供は入れないというルールがある中、無理やりお願いして子供の頃から入れさせてもらっていました。和太鼓を演奏しておひねりをもらうということを、その頃よりやっていたのです。和太鼓の習得の仕方としては、基本的には『見て覚えろ』という環境だったので、即興で演奏していく中で技も見ながら全て組み立てていくようになりました。そういった経緯も含めて僕の特徴としては、ジャズに非常に近いのですが、特にヨーロピアンジャズとのセッションというのが、前例にないかもしれないです。きっかけは、世界的にも著名なピアニスト、ウォルター・ラング氏と共演させてもらったことですが、彼は『ピアニシモの芸術家』と呼ばれています。その相反するものと共演して、どうやって和太鼓の良さを表現するのか、アプローチの手法を学ばせてもらっています。そういったこともあって、現在やっているジャズとのセッションなども違和感なく出来ている感じです」

03 世界で和太鼓文化を作るための革新力

タイコニスト TAKUYA

海外での活動は「甘えが許されない」

TAKUYA渡独したのは27歳の時。基本的に3ヶ月(90日間)を超える長期滞在の場合、ビザを取得する必要がある。現在、アーティストビザフリーランスビザ)を持ち、活動を行っているTAKUYAが、そこに至るまで、そして今後目指していることを次のように話す。

TAKUYA「今、3年のアーティストビザフリーランスビザ)を取得しているのですが、最初にドイツへ渡ってきた時、3ヶ月という限られた期間のなかでどうやってビザを取れるのか?滞在中に、知り合った作曲家の方に『ビザがないと出演できない』という理由も付けて推薦状を書いてもらい、まずは1年のビザを取得したのです。その1年の中で、年金や保険、税金などを支払い、次に2年の取得、そして3年まで取得出来るようになりました。ミュンヘンには難民が多く入ってきているという事もあり、今では外国人がビザを取得するのはさらに難しくなっています。制度も変わり、3年以上のビザ取得の場合にドイツ語の試験があり、A1、A2、B1、のドイツ語検定に合格しなければなりません。今は、時間を見つけてドイツ語のレッスンを受けています」

パーソナライズ社会の生き方「タイコニスト」

インターネットの普及、SNSの広がりが著しい昨今、より「パーソナル」の時代へ入った。そして、アーティストクリエイターが活動をするうえで、日本のみならず海外でも活躍するための情報など手に入りやすい時代にもなってきている。そこで、自分自身をどのようにパーソナライゼーション出来るか?TAKUYA自ら作った呼称を話してくれた。

TAKUYATYCONISTタイコニスト”は、僕自身が考えた造語です。ピアニスト、バイオリニスト、ギタリスト、IST、が付くと専門家というイメージが僕にはあります。和太鼓にもそれがあって良いじゃないかと思って、付けたオリジナルの呼び名です。和太鼓は、英訳すると“Japanese drum”になりますが、ヨーロッパでは“WADAIKO”として浸透し始めています。“SUSHI”や“SAKE”と同じように、和太鼓が“WADAIKO”として広まってくれると良いなと思います。そのためにも、TAKUYAにしかできないこと、TAKUYAだから出来ることを意識して、どんどんクリエイティブな活動をしていきたいです。ヨーロッパ在住の和太鼓奏者ってなかなかいないと思うのです」

撮影(表紙、インタビューカット):daisaku kikuchi

2019年予想
本質的「パーソナライズ化」元年へ

From the Editor in Chief

BTL 編集長 兼 アーキテクト/倉本 麻衣

働き方改革ワークライフバランスなど、これまで「画一化」された人々の働き方を、いかにして「多様性」に向かわせるべきか、あらゆる手段を用いて社会へ浸透させようとしている。 しかしタイムマネジメントで生きている人々にとって、いきなり変えられるわけでもなく、逆に「コンピュータに仕事を奪われる」という心理が働く。一方で、アーティストやクリエイター、時代変化を感じ取っているビジネスパーソンたちは、自分自身の「パーソナライズ化」へ、意識を向けている。今回のTAKUYAからも大きなヒントを得られる一つの例だろう。2018年のBTLは、AIやテクノロジーへ注目することは、少し我慢をする年であった。それは、前年の2017年にAIなどを追いかけつつも、まだまだ技術発展の途中であること、AIで必要になる膨大なデータを集める必要があること、本格的にサービス化されるまでには今しばらくかかるだろうと感じられる時期であったから。そこから1年以上経ち、いよいよAIの技術進歩もあり、本質的な「パーソナライズ化」に向けた動きが出てくるのではないかと考えている。AIとは、「パーソナライズされたテクノロジーである」という理解だとすると、コンピュータに任せられる仕事はコンピュータに任せ、人は空いた時間を多様な生き方が出来るようになる。学び、趣味、文化、芸術、音楽など、何を選ぶかはパーソナルそれぞれに委ねられる。そこで2019年1月のBTLでは、改めて「AI人工知能)」によって世の中が、そして人の生き方がどのようになるか?特集する。

Profile

ヨーロッパが舞台、和太鼓エバンジェリストの筋力
TAKUYA
TAKUYA
福井県生まれのTAKUYA(谷口卓也)は、和太鼓の 第一人者、林英哲の「英哲風雲の会」のメンバーとしても活動。ソロとしても、2010年、ミュンヘンにて、ワルター・ラング氏とのCD「友情」をリリース。同年秋に、東京・文京シビック小ホールで、自身の東京での初コンサートを開催。11年には欧州ツアーのため渡独。ドイツのバンド「WPE(World Perciussion Ensamble)」のメンバーとしてヨーロッパ、南米ツアーを毎年行い、ファーストアルバム「COMMON HERUTAGE」のレコーディングに参加。もう一つのバンド「Drumaturgia」ではミュンヘンの作曲家,Wilfried Hiller 作曲”Ophelias Schattentheater"をバイエルン放送交響楽団と世界初演を果たす。現在は日本と欧州を行き来し、ワールドワイドに活動の幅を広げている。しなやかな身体性を駆使した驚異の音速テンポと叙情性を併せつテクニック、そして太鼓を打ちながらオリジナルソングを歌う独自のスタイルで、ジャンルを越境したあまねくアーティストとのコラボを重ねる。2015年初夏、ホッピー神山のプロデュースによるデビューアルバム「TYCONIST」を日本コロムビアよりリリースした。同年秋には北沢タウンホールにてレコ発コンサートを開催。今後の活躍が期待される新時代の音速系和太鼓アーティスト。
公式サイト:TAKUYA Official Website