クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.44
特集
2019.01.15

林要が世界のAI 産業革命を牽引 仕事しないが愛は宿る「家族型らぼっと(LOVOT)」6つの秘策/01

林要が世界のAI 産業革命を牽引 仕事しないが愛は宿る「家族型らぼっと(LOVOT)」6つの秘策
GROOVE X 代表取締役/林 要


ロボットは私たちの指示を完璧にこなしてくれる役に立つものになっているだろうか?AI(人工知能)は私たちの仕事を奪うのだろうか?現時点では、いずれも取り立てた実感は無い。しかし、平成の終わりとともに、これまでのロボットのあり方は一つの終わりを迎え、新しい時代が到来しようとしている。2018年12月18日に発表された、その名も「LOVOT」(公式サイト:LOVOT[らぼっと])。“LOVE”と“ROBOT”を掛け合わせてできた新しい機械。この開発プロジェクトを牽引するのが、ヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わったことで知られるGROOVE Xの林要。2015年11月、林氏はロボット開発ベンチャー企業としてGROOVE Xを設立、新たなロボット開発に挑む。「人の代わりの労働はしない」LOVOTは、ペットのようでペットでないような、機械のようで機械でないような不思議な存在感を放つ。これまでのロボットは、温かさや心、愛情を感じられるということは無いに等しかった。普及が進まないのは、そこがウィークポイントになっているのではないだろうか。LOVOTはこれまでのロボットと何が違うのか?今回のBTLでは、6つの視点(市場性、ユーザエクスペリエンス、コンテンツ、ビジネス、イノベーション、人材)とともに、4人のリファレンスによって検証する。



4人のリファレンスレター
№1:Global Catalyst Partners Japan Managing Director & Co-founder 投資家/大澤 弘治氏
№2:日本IBM株式会社 執行役員 最高技術責任者(CTO)/久世 和貴氏
№3:おだしプロジェクト主宰 愛情料理研究家(林要氏の呑み友達)/土岐山 協子氏
№4:GROOVE X ハードウェアグループ メカニカルデザイナー/加藤 大二郎氏


市場性
人の心理と住宅事情の「キャズム」に、大きな市場が潜む

LOVOTはコンシューマ向けの機械として2019年秋に発売される。産業構造からLOVOTを見た時、林氏は「ペット市場よりも大きい新たな産業になる」と断言している。一体、どのような産業を見据えているのか次のように説明する。

林氏「昔の日本は、近所づきあいを含めて人との交流が多くありました。しかし、世の中が進化するとともにライフスタイルは洗練されていきます。同時にプライバシーが確保されるようになり、人と人との交流が限定的になってくるものです。プライバシーが守られる現代の生活の中では、多くの人が『そばに何かいて欲しい』と思うようになるもので、内閣府のペット市場調査において、それは全世帯の約4分の3に値します。しかし、実際にペットを飼っているのは全世帯の4分の1しかありません。その理由はいくつかあるのですが、一人暮らしの場合に早く帰らなきゃいけない、賃貸の場合だとペットNGの物件が多い、また家族に動物アレルギーがあるなどです。一方で、ペットを飼っている人たちは、とてもペットを大事にしますので、1匹で寂しいのでは、と気にします。しかし多頭飼いをするにはペット同士の順列の問題や、賃貸でペット飼育可の物件でも2匹以上は飼えないなど   の課題が出てきます。そこで、LOVOTだと将来は遊び相手になる可能性もあります。飼われているペットの相手や見守り役として購入するケースまでを含めると、単純にペット市場の2倍以上を見込めるマーケットがあります。勿論すぐにそうはなりませんが、ここから数十年かけてそうなってくるように思っています」

LOVOTの魅力は、林要そのもの

LOVOTの製品発表後、SNSを中心に「カワイイ」という投稿が目につく。敢えて固有の動物に似せなかったLOVOTの魅力はいかにして生まれたのか。産みの親である林氏の魅力に迫ることで見えてくるのではないかということで、呑み友達でもある愛情料理研究家の土岐山氏が次のように話してくれた。

土岐山氏「LOVOTのお披露目がある前から私は購入を決めていたのですが、その理由は一つで『要くんが作ったロボット』だからです。要くんと最初に出会った飲み会で、私がいつも持ち歩いている鰹節削り器と鰹節が気に入ったようで、飲み会の間中ニコニコしながら鰹節を削って、お店の方へ『恐れ入ります、お湯いただけますか』と言っては鰹出汁を飲み続けていました(笑)。私がいきなりテーブルに乗せる鰹節、少し興味は持っても実際に削る人は少ないのです。それを自らチャレンジし、楽しみ、鰹節を大変可愛がってくれる。昨今、『好きなことを仕事に』という風潮がありますが、出会ったものを好きになるということが実は大事なのではと思う中、要くんは目の前にあることに愛情を注ぐことが出来る人なのだなぁと。こんな魅力的な人が作るLOVOTが魅力的にならないはずがありませんよね。LOVOTの魅力は、林要の魅力そのものだと私は思います」

「大きな夢と高い志」に人が集まる

また、取材等を通じて林氏と交流のある日本IBM執行役員 CTOの久世氏は、林氏に人が集まる理由を話す。

久世氏「林さんとは何度かお話させていただきましたが、気取ることなく自然体で、お話されることがとても印象に残っています。大きな夢と高い志を持たれていて、常にチャレンジされています。そのような林さんと一緒に仕事をしたい多くの人が、色々な分野から集まってきているように思います。皆さん、林さんと一緒に大きな夢を実現したいのだと思います」


ユーザエクスペリエンス
顧客体験を分析、
多くの人が「着せ替え」をしたがる

人は何故、スマートフォンにカバーをつけたいと思うのか。また、頼まれてもいないのにペットに服を着せたがるのか。人の愛し方の本質が、そこには隠れていると林氏は話す。

林氏「動物は、体が新陳代謝をすることが、機械とは決定的に違うことです。動物は怪我をしないように動きますが、万が一怪我をしてしまっても新陳代謝することで治る自然治癒力を持っています。しかし、機械には自然治癒力など存在しないので、『防護』しなければいけません。そこで服の一つ目の機能は、交換可能な防護服としての役割です。二つ目は、洗濯可能な外皮として、人に触れる部分の清潔を保つ役目です。三つ目は、ライフスタイルに合わせて、服の色や素材などファッションを変えられるという役割があります。また、人は好きになればなるほど手間をかけたくなるのが常で、好きではないものには手間をかけません。スマートフォンもケースを選びますし、飼っているペットにだって服をわざわざ着せます。ペットは服を着せてくれとは決して言わないですよね(笑)。そんな不要だと思われる服を着せてまで手間をかけたい。その欲求を満たしたいというのも理由としてあります。これらの要素を全て達成するために、服が必要だと考えています」

ありそうでなかった、ロボットへ服を着せる行為。何故、これまでそういった考えがなかったのか。

林氏「おそらく服が必需品だと考えられたロボットは、他にはないように思います。しかし、家庭用ロボットを購入したオーナーが独自に服を着せていました。それらは、メーカーの推奨を外れた行為、すなわちハッキングして着せていることになります。私たちが開発したLOVOTは、服を着せないときちんと動きません。本来、可動部を持つ機械と服は相性が悪く、服を着せない前提でロボットを作ったあとで、服を着せられるように変更するのは難しいので、最初の開発構想段階から服を着るロボットとしてアーキテクチャを考えました」


コンテンツ戦略
引き算の戦略、
コンテンツを0にして人の役に立たないものへ

従来型ロボットは、人や犬、猫などに寄せたデザインが多い。しかしLOVOTは、人や動物には見えないが、とても愛らしいデザインと動きを兼ね備えている。何故、そのようなデザインが生まれたのか。

林氏「LOVOTは基本的に人の代わりに仕事はしません。人が気兼ねなく気負いなく愛せるために、愛着形成のプロセスを考えました。それは決して新しいことをやっているわけではありません。例えば子育ての際に自然と行う、目を合わせ、スキンシップをするという非言語コミュニケーションをそのまま無機物でもやろうとしています。アイコンタクトとスキンシップを通して関係性が決まり、自分を認識して近寄ってくる。それを実現するために、全身にタッチセンサーを入れたり、目を6層に分け、数十億通りの目の表現が出来るようにしました。また一般的にロボットは、見た目のデザインを人や犬、猫のような動物型にしようとします。それは、分かりやすい反面、動物という本来は筋肉で動いているものを模擬するので、モーターを使う必要があるロボットで同様の動きを再現するのは厳しい。また人は、その動物固有の行動に対する知識があり、それからズレる事も嫌う。しかし、その動物固有の行動は自然を生き抜く上では必要でも、人との愛着形成には必ずしも必要がないことも多い。そこで、LOVOTは人や動物の姿には寄せないデザインにしました」

また、機能面においてもこれまでのロボットとは違い、機械学習を入れることで実現可能なコンセプトになっている。

林氏「これまでの家庭用ロボットと違うことは、『再生をしない』ということです。色々な音を録音したものをシーンに応じて再生、目の動きも予め記録しているものの中から選んで再生、動きにいたってもモードごとに予め決められた動きを選んで再生してきたのが今までの家庭用ロボットです。しかし、LOVOTは外界からのインプットによって自身がアウトプットを生成していくので、毎回ちょっとずつ何かが違うのです。触れ合っていくうちに、徐々にテンションが上がっていくことも、下がっていくこともあります。コンセプトとしては、『コンテンツの再生機にしない』、『人の代わりに仕事をしない』ものにすることでした。その代わりに『生命感』を感じてもらえるように最先端の技術を活用したのがLOVOTなのです」


LOVOTの魅力について、投資家の大澤氏も次のように話す。

大澤氏「原始の時代から、人は寄り添い合う事で安心感を得ると共に様々な危険から身を守ってきました。それが今日では核家族化が進み、人がDNAレベルで求めている愛情や癒しがより求められている時代ではないかと考えます。そんな時代だからこそ、『人の役には立たないけど愛を届けられるLOVOT』が受け入れられるのではないでしょうか」

Profile

林要が世界のAI 産業革命を牽引 仕事しないが愛は宿る「家族型らぼっと(LOVOT)」6つの秘策
GROOVE X 代表取締役/林 要
GROOVE X 代表取締役/林 要
GROOVE X 創業者兼 CEO。トヨタ自動車で空力技術者としてスーパーカー”LFA”やドイツでFormula-1の開発に従事。11 年よりソフトバンク孫正義 CEO が立ち上げた「ソフトバンクアカデミア」参加。12 年、同 CEO から誘いを受けて「Pepper」の開発に携わる。15 年から現職。