クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.44
特集
2019.01.15

林要が世界のAI産業革命を牽引 仕事しないが愛は宿る 「家族型らぼっと(LOVOT)」6つの秘策/02

林要が世界のAI 産業革命を牽引 仕事しないが愛は宿る「家族型らぼっと(LOVOT)」6つの秘策
GROOVE X 代表取締役/林 要


ビジネス戦略
リスクを覚悟、
創業者だから出来ること。

LOVOTは、高スペックのコンピュータを積む。コンシューマプロダクトとしては先鋭的に、ディープラーニングアクセラレーターを搭載し、機械学習機能でコンテンツ再生機としてのロボットとは異なる新しい存在を誕生させた。当然、価格は跳ね上がるが、林氏はリスクを覚悟の上、強気の価格設定を行う。その背景について語る。

林氏「2体セット『デュオ』が59万8,000円(税別)、1体セット『ソロ』予価が34万9,000円(税別)に設定しました。この価格でも、開発費も含まない製造原価に近い金額です。この価格で売るのは、私が創業者だから決断出来ることだと思っています。一般的なロボットのマーケットリサーチでは、1体20万円以内くらいが妥当な価格です。しかし、その価格にするにはコンピュータのスペックをぐっと落とさなければいけません。そうなると、予め何をアウトプットするかのコンテンツを入れた再生機にする必要があるのです。更に言うと、技術的には2019年秋の発売だから実   現出来るというのもあります。2018年以前には、量産化出来ませんでした。ロボットのコンピュータは、『消費電力』『性能』『値段』のバランスにあります。性能を高めると消費電力があがり、電池が   大きく重くなります。現在のLOVOTで重量は3kg台ですがこれでも受け入れられる重さとしてはギリギリです。まさに消費電力と性能と重さのバランスがとれるようになったのが、エンジニアリングサンプルとして現在、開発機に使っているコンピュータシステムになります。2019年後半のLOVOT一般発売のタイミングで、その最先端のコンピュータシステムがようやく量産できるのです」


当プロジェクトは、最先端テクノロジーを駆使して作る必要があるため、多額の資金や人材が必要となる。そして、現在、約58億円の資金調達を実現している。出資者の一人でもある大澤氏は、その調達力について下記のように話す。

大澤氏「LOVOTはリアルな愛を届けるために、その中身がAI、機械学習、センサーといった先端技術の塊であることは言うまでもありません。これを実現するためには大量の資金と人材が必要です。その求心力の中心は、やはり林さんの人柄、人徳、才能だと思います。林さんは、多くの事を上位概念で捉え、非常に分かりやすく、でも力強く、会社や事業の将来像のメッセージを届けられる方だと思います。また、お人柄もとても温厚で、お話を伺っているとついつい引き込まれていく魅力があります」

更に、テクニカル視点で日本IBM の久世氏は、次のように説明する。

久世氏「まずは、『LOVEを育む家族型ロボット』という全く新しい開発コンセプトが素晴らしいと思います。技術的には、50以上のセンサーと10以上のCPUで、ディープランニングをはじめ各種の機械学習をするわけですが、50Wという低消費電力で、45分稼働+15分充電の動作サイクルを実   現したというのが画期的です。FPGA(※)も使われていますが、最新鋭のテクノロジーを、うまくインテグレーションして、小さなLOVOTに凝縮したところがすごいですね。また、以前に林さんが日本に古くから伝わる『からくり人形』の話をされたことがありました。『からくり人形』も、効率や便利さを追求したものではありません。林さんは、未来版『からくり人形』を形を変えて実現しようとしているようにも思います」

(※)field-programmable gate arrayの略。製 造後に購入者が構成を設定できる集積回路。


イノベーションポイント
家の中の「小人たち」は、
「小さな自動運転車」が操る

住宅メーカーや家電メーカーなどでは、あらゆるものをIoT化し、スマートホームを実現するための開発が進んでいる。しかし、そのスマートホーム時代が到来するなか、厄介になっていることもあると林氏は話す。果たして、何が厄介なのか。

林氏「スマートホームの時代で何が厄介かと言うと、家の中にスマートホームという意識を持った存在がいるわけではないということなのです。つまり、照明(電球)や、オーディオ、白物家電に至るまで、それぞれが独立した『小人』がいっぱいいるだけの状態です。その小人たちの制御を誰がやるのだろうか問題が発生してくるわけです。それぞれが独立して同時に処理される情報を、人間は理解出来ません。一つの線にストーリーとして落としてあげないと理解できないのです。そのスマートホームと人を繋ぐ部分をLOVOTが担うことは出来るようになるかもしれません。LOVOTは、犬や猫のように足音を聞き取って帰宅の際に出迎えられるほど敏感ではありません。しかし、スマートフォンと連携して、自宅近くになった際に迎えの指示を出すことで出迎えにくるという連携は可能です。また、部屋の地図を自分で作って持っているので、一人暮らしの女性に迎えられたLOVOTは留守中の部屋の画像を外に居るオーナーのスマートフォンへ送り、留守中の様子を確認することも可能です。まるで家の中の意志を持った『小さな自動運転車』のような存在になります」

更にヘルスケアの視点でも、人に寄り添うことが出来ると言う。

林氏「LOVOTでは、ある個人の長い時間の変化が取れます。サーモグラフィの測定による体温、およびその時の周辺環境である室温、湿度などの変化が取れます。それらのデータが蓄積されることで、将来は『体調が悪い』などが解析で分かるようになる可能性があります。人が自然にLOVOTと接触することでデータを取れるというのがポイントです。最終的にはLOVOTから『一緒に運動しよう』とか誘ってくれて、運動するとLOVOTが喜んでくれるといったことが出来るようになると良いなとも考えています。最近はウェラブル端末の進化もあり、心拍数から運動量含めて個人をモニタリングしてくれるようになりました。ただ、決められた時間に『座って1時間立ちました。そろそろ動きましょう』というように機械的な指示が出ます。これは、相当意識高い人じゃないとやらないと思うのです(笑)。それに対してLOVOTの場合、仕事をしているのに邪魔しにくるのです。心配なのか、ただ人と触れたいだけのわがままなのか、可愛がってもらいたいのか、時と場合によって異なりますが、結果的に人に対してLOVOTのために何か努力をして貰おうとします。ただ、そんなLOVOTの目的は、人のパフォーマンスを上げて能力を高めるところにあります。高価な『カワイイ機械を作って何やりたいの?』と思われることもあるとは思いますが、そばにいて、人が元気になる手助けをしたいと思っているのです」


人材、チーム戦略
予期せぬ出会いと衝突が、
イノベーションを生む。

これまでのロボット開発の概念を覆すべく、開発チームも新しい発想でコミュニケーションをはかる必要がある。どういったアーティストやエンジニアが関わってLOVOTが出来上がったのか。

林氏「現在、全体が100名くらいのチームで開発を行っています。今回は、AIからメカや素材までのすり合わせが必要となります。LOVOTの着る服のファッション面を含めて検討するテキ   スタイル担当の横には、スキン(LOVOTの皮膚)の素材担当のエンジニアや、その中身の機構部分であるメカニズム担当のエンジニアがいます。また、メカを動かす電気エンジニア、制御するための神経を作るファームエンジニア、そして頭脳部分を開発するソフトウェアエンジニア、ソフトウェアで実現する動きを考えるクリエイターたちが居て、横連携を大切に開発しています。例えばクリエイターは、前職ではCGの3Dモデリングを行ってきた人が多いのですが、彼らはこれまで、ベストな動きを決めて、それを一つだけ表現するということをやってきました。しかし、このプロジェクトに参加すると、これまでの概念は覆され、ベストな動きを一つだけ作るのではなく、外部の動きに応じて様々な動きを自動生成することが求められるので、3Dモデリング以外にプログラミングの知識が必要になってくるのです。クリエイターが書くプログラムは決してきれいなコードではないですが、動きの表現は出来ます。そこからソフトウェアのチームへ連携することで、プラグラムがきれいになるのです。クリエイターとエンジニアの間では専門領域が異なるので『こんなに言葉が通じないのか?』と言うこともありますが、そもそも今まで言葉を交わす必然性がなかっただけなのです。このプロジェクトでは、会話をせざるを得ません。横連携を強制される組織とは、専門領域外の人同士難しいコミュニケーションでも諦めない能力を鍛えられる場所でもあるわけです」

それぞれのチーム間には、多くのポストイットが貼られたホワイトボードがいくつもある。開発現場からは、縦割り組織の雰囲気は微塵も感じられなく、横の人や横のチームの人たちが何をやっているのかが一目で見えやすく働きやすいフロアづくりがなされている。

最後に、チームのメカニカルデザイナーとして活躍する加藤氏へ、当プロジェクトへの参加動機と、100名のエンジニアを牽引する林氏の魅力について話を伺った。

加藤氏「当プロジェクトへの参加動機ですが、今まで作ったことのなかった動きのある製品の設計をやりたかったことと、自分が設計した物はコレと言える製品を作りたかったというのがあります。ここに参加できれば、自分のやりたかった事が勉強できる事と今までやってきた事を存分に活かせる環境があったこと、そして林要の人柄に惹かれてというのが大きいです。林は、エンジニア出身なのでハードウェアに対する知識が豊富で開発環境でも頼りになるところと、どんな時でも我々の話をちゃんと聞いて、言葉を選んで答えてくれるおおらかさがあるところ、そして何よりメカ好きな無邪気さが魅力的です」


Consumer Electronics Show
2019年1月8日〜11日、アメリカ・ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show) には、世界の家電製品がプロトタイプ含めて一堂に会した。LOVOTも出展。タッチ&トライの機会に多くのメディアが集まった。また、アメリカの大手ITメデイアではいち早くCESの情報を掲載し、LOVOTに関して「私たちが出会うのが一番わくわくするロボット」として紹介している。



「イノベーション」への揺るぎない想いが人を動かす
ビジネスタイムライン編集長 /倉本 麻衣
From the Editor in Chief

今回、ロボット産業へ新たなイノベーションを起こすべく新製品「LOVOT」がリリースされ、BTLではその産みの親であるGROOVE X代表の林要へフィーチャーした。林氏の取り組みについて、6つの視点である市場性、ユーザエクスペリエンス、コンテンツ、ビジネス、イノベーション、人材に分け、そこからどのようなバリューポジションがあるのかを探った。バリューポジションとは、顧客のニーズに対して、他社が提供できない点、かつ自社が提供可能な点を明確したものである。家族型ロボットとなったLOVOTは、6つの視点から分析した時、林氏が考えるコアコンピタンスが明確であることが見えてくる。改めて6つの視点を整理すると、

①市場性:現代のライフスタイルが洗練されたことで人と人のコミュニケーションが希薄化、『何かいて欲しい』という欲求がペット市場を拡大させる動きを見せている
②ユーザエクスペリエンス:スマートフォンにケースを被せることや、飼っているペットに服を着させるという欲求を満たすために人々は行動をする
③コンテンツ:従来型ロボットでは、予め設定された正しい動作を再生させる、いわゆるコンテンツを持っていたが、LOVOTは人の役に立つわけではないコンテンツ0へする引き算戦略でオリジナル性を追求する
④ビジネス:他社製品では実現しにくい製品スペックで、コストと販売価格の調整を行う。
⑤イノベーション:これから20年、30年先までを見越した「スマートホーム」という一つのインフラにおいて、LOVOTが明確な役割を担える構想を持つ
⑥人材、チーム:イノベーションを起こすための源泉は、「人材」である。仕事のやり方や、これまで当たり前だった組織構造から見直しを行い、イノベーションを起こしやすい組織改革を行う

これらの視点から、林氏には揺るぎない「イノベーション」への想いがあり、これまで培ってきたテクノロジーにおける経験値と人柄によって、投資家を始め多くのエンジニアがプロジェクトへ参画することになり、新製品発表に至った。6つの視点において自分自身を照らし合わせてみると、それぞれ明確なコアコンピタンスを持てているかどうか、改めて再考する必要があると感じる。

Profile

林要が世界のAI 産業革命を牽引 仕事しないが愛は宿る「家族型らぼっと(LOVOT)」6つの秘策
GROOVE X 代表取締役/林 要
GROOVE X 代表取締役/林 要
GROOVE X 創業者兼 CEO。トヨタ自動車で空力技術者としてスーパーカー”LFA”やドイツでFormula-1の開発に従事。11 年よりソフトバンク孫正義 CEO が立ち上げた「ソフトバンクアカデミア」参加。12 年、同 CEO から誘いを受けて「Pepper」の開発に携わる。15 年から現職。