クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.26
テクノロジー
2017.08.17

きゃりーぱみゅぱみゅ×空間演出×AR

きゃりーぱみゅぱみゅ×JAXA×川田十夢×関和亮
2017年6月3日(土)、つくばカピオで開催されたイノフェス。大トリの、きゃりーぱみゅぱみゅfeat.関和亮/AR三兄弟/JAXAのステージ。節電センサーと骨格センサーを用い、きゃりーぱみゅぱみゅの体の動きに合わせて、紗幕上の映像が再現される仕組みで観客を沸かせた。しかし、決してテクノロジーの力 だけでは、このステージを成功に収めることはできなかったであろう。技術開発と設計を担当したAR三兄弟の川田十夢の企画力と周囲を巻き込む力に迫る。



テクノロジーをナマモノに落とし込む

最先端のAR技術と映像技術を掛け合わせた前例のない一夜限りのステージは、着想から本番までどのように創り上げられたのだろうか。
川田氏「はじめに、きゃりーちゃんのイメージを深掘りして、その後に技術で肉付けしました。Perfumeが予め計算し尽くされたテクノロジーだとしたら、きゃりーちゃんは『ナマ』。だからこそ、きゃりーちゃんのファンタジーな世界は、彼女の動きを根拠に表現するのが良いだろうなと思ったんです。今回のステージでは、曲に合わせて紗幕の映像が『地球→宇宙→地球』へと変わるにつれて難しい技術を取り入れています。『あの大仏はきゃりーの動きにリンクしていたのか!』と最後には気づいてもらえるよう、わざと手を振ってもらったりして、テクノロジーを紐解くヒントをステージ上に散りばめています。紗幕の特性上、きゃりーちゃんが出現する・しないの演出は照明さんとの連携が大切でした。このステージはテクノロジーの技術半分、アナログのコミュニケーション半分の総勢30人ほどのチームで3ヶ月かけて創り上げたもの。全体のバランスを保ちながら、最後までディレクションしてくれた関和亮さん。やっぱり凄い人でした」


100点の企画書は持ってかねぇし!!!

「俺たちライゾマじゃねーし!!!」これは、本ステージの企画書のタイトルだ。実は、ライゾマティクスの作品に感銘を受けて三兄弟を結成したほど、リスペクトしているのだと言う。企画に携わるビジネスパーソンに向けて川田流企画書の勝利ポイントを教えてくれた。
 川田氏「タイトルはきゃりーちゃんの本、『あたしアイドルじゃねぇし!!!』を参考にしました。キャッチーなタイトルは、単純に興味を惹きますよね。実は僕、自分が作った『企画書』で落とされたことがないんです。ポイントは、企画書に完成イメージやおもしろさを共有できるような手書きのイラストを1枚挿れること。特に、僕たちはプログラミングがメインなので文字ばかりの仕様書だと見る人にとっておもしろそうに見えないし、変にかしこまっちゃうでしょ。だから絵に落とすんです。『完璧な企画書を持っていかないと!』と思っている人が多いかもしれないけど、僕の場合、プロジェクトに参加している人がペンで書き込んで初めて完成です。プレゼンを聞く人は全員プロフェッショナル。だからこそ、『ここどうなっているの?!こんなことできるの?!』と突っ込める余白を作る。そうすることで、はじめて当事者意識を持ってもらえる。今回のステージも実際に音響さんや照明さんなど現場の声も反映して完成することができました。中にいると、どうしても外からのイメージに気づくことができない。外部からの客観的イメージを伝えた上で、夢とアイデアを詰め込んだ大風呂敷を広げる。そのあとは中の人と一緒に、具体的な根拠に基づいて企画書を完成させていきます」


ステージの企画書


経験をダウンロードする

きゃりーぱみゅぱみゅのステージを終え、今後どのようなイノベーションを考えているのか構想を伺った。
川田氏「遊園地のアトラクションで使えそうなアイデアが浮かんでいます。今までは受け身だった映画やエンターテインメントを能動的に楽しめるような魅せ方ができるかも。あと、これはすごく驚いたことですが、きゃりーちゃんって一瞬で振り付けを覚えてしまうんです。かたや、僕は同時期に別件で踊る機会があったのですが、簡単なはずなのになかなか覚えられない。この出来事をきっかけに、今まさに新しいものを作り始めています。それは鏡なのですが、骨格情報を感知して人の動きをハーフミラーに映し出し、それに合わせて、ダンスなどをカジュアルに習得できるというもの。これを使えば、ゆくゆくは陳建一の中華鍋の振り方なんかも習得することができます(笑)つまり、次のARは『経験のダウンロード』が重要なテーマ。具材・調理方法などテキスト上のレシピだけじゃなく、鍋振りのコツなど経験そのものをレシピ化して簡単にダウンロードできる世界があってもおもしろい。1877年に蓄音機を発明したエジソンは、そもそも『音』ではなく『経験』を録音・再生できる装置だと思って作っていました。発明から140年経った現代では、伝承したい経験も、それを受け渡す技術もたくさんある。エジソンのことエっちゃんって呼べるほどの脳内距離感なのですが、エっちゃんが実現したかった経験をダウンロードする仕組みも、いよいよ実装できる。おもしろい時代になってきました」