クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
テクノロジー
2019.02.04

電気を高く売り安く購入できる? ブロックチェーン活用の個人間電力取引の実用化が鍵を握る

「エネルギー」分野で、P2P(※1)個人間取引が可能になる時代へ

POINT
✔ 2019年11月、太陽光発電のFIT制度(※2)が切れ始めるので、自宅で作った電力を高く売れるようになる
✔ ブロックチェーン技術を使って自家発電した電力の売買を行えるようになる
✔ 2040年、地球の平均気温が2度上がる想定があり、いかに低く留められるかがこれからの課題

パワーレッジャー社のホワイトペーパーより抜粋(図左の「Application Host」をシェアリングエネルギー社が担う)

世の中に認知されている「仮想通貨」は、投機目的の銘柄が多く、また2018年初頭に起きたコインチェックのNEM流出事件によって「仮想通貨は怪しい」というイメージが、より大きくなってしまった。一方で、ベースとなっている技術のブロックチェーンを活用し、着実に私たちの生活が豊かになるようなプロジェクトを進めている企業も少なくはない。ブロックチェーンが持つポテンシャルの高さは計り知れず、インターネットが登場して以来以上のインパクトがあるとも言われている中、エネルギー分野のスタートアップ企業が目指す「電力のP2P個人間取引」。様々な規制がある中、数年後を見据えて準備を進めるシェアリングエネルギー事業開発室長の井口和宏氏へ取材を試みた。本質的なブロックチェーン活用のやり方が見えてくる。

(※1)Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア)とは、複数の端末間で通信を行う際のアーキテクチャのひとつ。対等の者同士が通信をすることを特徴とする通信方式。
(※2)FIT制度とは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度制度を言う。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度。

P2P電力取引は、「卒FIT電力」から始まる

–P2P取引は、あらゆる分野で実用化に向けて動き始めていますが、電力取引分野で導入する
井口氏「まず、電気の基本的な概念として、電気を売ることができるのは経産省に認められた事業者(小売電気事業者)のみです。一般の消費者は、個人で発電した電気を直接誰かに売ることはできません。しかし、私たちはそこが出来るように目指しています。その理由として、2019年11月に電力マーケットでは一つのエポックメイキングをむかえます。それは、10年間の住宅用FIT制度が切れ始める月になるからです。10年前にできた制度ですが、切れると買い手がいなくなり余った電気をどう使うか?と言うのが問題になります。そこで、私たちは電力取引を個人間で出来るようにブロックチェーンを活用し、いつ・誰が・誰に・どれだけの量の電気を販売しているかの把握が出来る仕組みづくりのプロジェクトを進めているところです。しかし、冒頭で話したように電力売買は、経産省に認められた事業者のみが行えるため、私たち自身が小売電気事業者のライセンスを取得できるように現在進めています。尚、プラットフォームとしては、豪州で開発された再生可能エネルギーのP2P取引を行えるPawer Ledger(パワーレッジャー)と組むことになっています」

–パワーレッジャーは、専用トークンPOWRがありますが、個人間取引においてトークンが利用されると言う認識でしょうか?
井口氏「はい、トークンを利用します。現在の電気料金の支払いの仕組みは、電気を使った後の支払いで後払いシステムになっています。これは、電気代を支払わない人が出てくるので、その分の与信リスクや請求コストは小売事業者が負担しています。そのために、電気料金は高くなっていることもあります。つまり、中間マージンを除くことで電気料金は安くなるわけです。そこで、専用トークンでの決済を取り入れようとパワーレッジャーの仕組みに目をつけました。しかし仮想通貨は、まだ市場が安定していないため乱高下が激しいです。安定した為替レートを維持するために、パワーレッジャーではデュアルトークンシステム(※3)と呼ばれるシステムを採用しているのです。これは、仮想通貨取引所で購入することができるPOWRトークンをメイン通貨として使い、プラットフォーム内ではPOWRトークンを担保に交換ができるもう1つのトークンであるsparkzを使います。sparkzは、1sparkz=1円のように、ローカル市場の通貨と連動します。このような二重のトークンの仕組みにすることで、為替レートの安定化を図ることができるのです。Power Ledgerは、現在タイのバンコクで複数の事業者と共同で実証実験を行なっていますが、P2P取引を実施した結果、電気代が約2割下がっていると言う情報があります」

(※3)デュアルトークンとは、ユーティリティトークン(ブロックチェーンベースのサービスで利用料として使うトークン)とセキュリティトークン(有価証券を仮想通貨トークンにしたもの)を併せ持つ

日本の世帯は「スマートメーター普及率が高い」ことで、世界から注目されている

–パワーレッジャー社との取組みは、どのような経緯があって進められたのでしょうか?
井口氏「私は経産省の委託事業である『再エネ電力のブロックチェーンを用いた取引スキームに関する標準化調査』の委員として各国のユースケースを調査していたのですが、とりわけパワーレッジャー社の先進性・実現可能性に関心を持ったので、パワーレッジャー社の代表であるDr. Jemma Greenさんにインタビューを行いました。色々とお話しを伺う中で、当社自身にも関心を持って頂き、先方の事業開発担当のトップを紹介いただいて、ビジネスにおける具体的なお取組みの話が進んだ形になります。もともと、パワーレッジャー社含めて海外のエネルギー分野から日本の電力マーケットは注目されています。その理由は、日本の『スマートメーター』になります。これは通信機能を持つ電力量計であり、日本では2024年までに全世帯に導入される計画です。そんな国は他にありません。スマートメーターによって、30分単位で売電・買電の数値が取れるようになります。いわゆる電力のデジタル化です。これによって、たとえば高齢者の見守りサービスや商業施設の省電力化など、エネルギーマネジメントによる様々なサービスの展開が期待されるのです」

―今後、エネルギー分野は、どのような展開が予想されますか?また、どのような立ち位置を築いて行きたいと考えていらっしゃいますか?
井口氏「私たちシェアリングエネルギー社が進めているのが、再エネを始めとした分散電源をいかに有効活用できるか、そのためのサービス提供です。また、日本の企業として負わなければいけない責任の一つとして、地球温暖化への対応があります。地球の平均気温が今より2度以上上がると、地球に深刻なダメージを与えると言われています。しかし、国連の調査によると、2度未満におさえることは容易ではありません。そのため、脱炭素化への取り組みを、日本全体の責務として考えていかなければいけません。そのソリューションの一つが、P2P電力取引ではないかと考えています。自分が創った電気の自家消費および近隣住宅への融通により、ローコストかつクリーンな電気の自給自足を地域単位で進めるという取り組みです。さらに2024年には産業用のFIT制度が終わり始めます。そういったことを踏まえ、今から準備を進めておく。日本のエネルギー市場は約20兆円ありますので、これからアイデアと技術次第で大きな提案ができるように思っていますし、『バーチャルパワープラント』のように電気のデジタル化技術を活用し、既存の大型発電所に代替でき得る、イノベーションが起きる分野でもあると考えています」


編集部の視点
新しい技術をどこでどのように使うのか?現在、AI、IoTの活用と並んでブロックチェーン技術の活用方法が、模索されている。特に社会課題を解決するために活用されることは、大きなインパクトが出るのではないか。電力のデジタル化は、IoTで進むスマートホームとも密接に繋がってくることが見えてくる。


井口 和宏 株式会社シェアリングエネルギー 事業開発室長 
慶應義塾大学SFC卒業後、非営利組織のコンサルティング業務を経て、2010年株式会社アイアンドシー・クルーズに入社。日本最大のプロパンガス比較・切替サービス「enepi」や、新電力会社の立ち上げなど、主にエネルギー領域における新規事業開発に従事。その後、出資先であるシェアリングエネルギー社の設立に携わり、現職。分散電源のプラットフォーマーを志向する同社の事業開発を推進している。経済産業省委託「再エネ電力のブロックチェーンを用いた取引スキームに関する標準化調査」委員