クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.45
テクノロジー
2019.03.01

世界初ベンチャーインキュベーター「H―FARM」

イタリアの広大な農地をインキュベーション施設へ、
最先端テクノロジー活用のスタートアップがここから生まれる

POINT
✔イタリア人起業家が世界で初めてカトロンにベンチャーインキュベーターを創設
✔国際的に通用するIBプログラム(※1)に従った教育を受けられるH-CAMPUSには1,000名以上が在籍
✔独自開発したVR空間で、没入感のある教育体験ができる

※1:IBとは、International Baccalaureate(国際バカロレア)の略。1968年にスイスのジュネーブで設立された非営利団体。教育プログラムそのものを指す場合もある。様々な国の大学入試制度に対応した教育方針で、世界共通の大学入学資格及び成績証明書を与えられるプログラムとして開発された。


2005年、イタリアの北東にあるカトロン(トレヴィーゾとヴェネチアの間)に設立された世界初のベンチャーインキュベーター「H-FARM」。もともと農地であった場所はイタリア人起業家であるリカルド・ドナトンと8人のメンバーによってリノベーションが行われ、若者たちのアイデアを実現するためのインキュベーション施設に生まれ変わった。現在、キャンパスには幅広い年齢層で1,000名以上の学生たちが共に学び暮らしている。今後、益々デジタル変革が予想される現代において、何歳になっても学び続けなければあっという間に取り残されてしまう。時代変化に柔軟に対応できる人材育成について、H-FARM代表のリカルド・ドナトン氏へ取材を試みた。

若者が持つアイデアの実現を後押しするために創設されたH-FARM

−カトロンに、ベンチャーインキュベーター「H-FARM」を作ろうと思った理由を教えてください
Donadon「1997年に私が立ち上げたインターネットサービスであるオンラインポータルサイト『E-TREE』が大成功し、イタリアの大手企業の一つに成長することができました。2005年、次の事業となるH-FARMを立ち上げるために、E-TREEを設立した8人とともに会社を去りました。当時の私たちは、若者たちが自らのアイデアを実現出来るように支援したいと思っていました。しばらくの間はクレイジーなアイデアだったのですが、創立される会社の株10%を持つことと引き換えにプロジェクトへ資金を提供していました。ここは私の故郷であり、多くの優秀な労働者が居る土地であり、世界を見ても著名な企業がいくつもある場所でもあるので、起業家のためのエコシステムを作るためにこの場所にしました」

−何故、「農地」だったのでしょうか?
Donadon「私と田舎の関係性はとても強いものがあり、H-FARMを設立する前に仕事から1年間離れ、ガーデニングや旅行をしていました。H-FARMを始めるのに農地を選んだ理由は、謙虚で勇気と情熱がある田舎で価値が共有できる場所として、とても自然な選択でした。そして、農家から別荘を購入しリノベーションを行いました。もとの建物の構造は残しつつ、サイロハウス(家畜の資料や穀物を貯蔵する円筒状の大きいタンク)やVRルームなどに変わり、少しずつ大きくなっています」


若者が持つアイデアの実現を後押しするために創設されたH-FARM

−H-FARMの特徴としてしっかりとしたエデュケーション(教育)プログラムを学べるH-CAMPUSがあります。このH-CAMPUSでは、具体的にどのような教育がされているのでしょうか?
Donadon「H-FARMの教育は、3歳になる小さな子どもから若手の専門家、管理者まで1000人以上の学生がいます。とても幅広い年齢層が対象となっています。IBプログラムに従い、高度なデジタル変革に対応出来るような教育プログラムを考えてH-FARMが開発したHインターナショナルスクールになります。H-FARMの教育では、学生から起業家、専門家まで一緒に並んで暮らしています。学生それぞれの才能を育成することによって伝統的な教育と学習方法に革命をもたらし、ダイナミックな教育プログラムを通して彼らの能力を最大限に引き出せるようにしています。生徒、教師、管理職、専門家が相互に関わることで、デジタル変革に対応できリーダーシップを取れるように考えられています」

−日本人で学ばれている人はいますか?
Donadon「昨年は2名いましたが、残念ながら今のところは日本の学生はいません。しかし、日本から来てくれることを待っています。私たちの学校では英語で学べ、IBプログラムに従った教育プログラムなので国際的に認められています。夏休み向けの短期コースも用意がありますし、とても美しいキャンパスには宿泊施設も提供しています」

−H-FARMプラットフォームでは、デジタルマガジン“maize(とうもろこし)”も運営されていますが、どのようなものか教えてください
Donadon「マガジンの『とうもろこし』は、『ビジネス』『教育』『テクノロジー』が社会に与える影響について探求するプラットフォームになります。とうもろこしは、世界中の読者が知識の基礎になるように設定しています」


VR、AI分野の開発が熱い

−H-FARMにおいて、テクノロジー分野で熱い領域は何になりますか?
Donadon「今、私たちは企業や学生のために、VRとAIについて取り組みを強化しています。私たちは、“Holodeck(https://www.bigrock.it/bigrockers/holodeck/)”と呼ばれるVRプラットフォームを開発しました。これは学生と教師が仮想空間において様々なプレゼンが行われますが、没入感のある教育体験を提供しています。AI分野では、コンサルティングやソフトウェアアプリケーションを含む革新的なAIソリューションの開発を行っています。音声及びテキスト分析、音声インターフェース、検索エンジン、データサイエンスにいたるまで、これら4つの主要なラインを企業向けのAIサービスとして開発しています。

編集部の視点
学びに年齢は関係ないこと、何よりも環境の良い自然の中で先端テクノロジーを学べるということに、バランスの取れた人間力を身につけられるのだろう。更には、世界で通用するIBプログラムに従いテクノロジーを組み入れた教育プログラムは、「アイデアが想像力と機知に飛んだものを組み合わせて生まれると革新している」というベースで、これからの時代を本質的に見抜いたものになっているように思う。


Riccardo Donadon
H-FARM Founder & CEO
1967年トレヴィーゾ出身。高校卒業後、心理学の学位コースを専攻。2015年1月、H-FARMを設立。毎年、1,000以上のプロジェクトを分析、評価したのち、20のプロジェクトへ資金調達を行っている。2013年、Ca 'Foscari大学の諮問委員会に加わる。2016年9月、文部科学省の法定代理人に任命される。