クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Tomato Innovation
「土」にこだわったトマトづくり
12年かけて作り上げたITハウスの舞台裏

静岡県菊川市にあるトマト栽培ハウス。約1.6ha(4840坪)のトマト栽培ハウスで、農業では珍しい「プランターを使用した隔離土耕栽培」を行う。IT活用によって安定的な出荷を目指す農業にイノベーションが起こる。




BTL前号では、「モスの菜摘」シリーズの主役であるレタスについて、野菜くらぶを通して出荷するレタス生産イノベーターを紹介した。今号では、モス店舗で年間通して消費量が多いトマトの安定供給に着目。2006年にモスと野菜くらぶが共同で支援し、スタートさせたモスファーム・サングレイス代表 杉山氏へ、先端技術を取り入れた全天候耐候性ハウスによるトマト栽培について迫る。




12年かけて作り上げた「土」でトマトを育てることへのこだわり

世界的に見ると、国として農業に力を入れているのがオランダ、フランス。特にオランダは、植物工場(※1)の発展により、安定した野菜の出荷量を確保し、輸出で成功をおさめる。世界的ブームにもなっている水耕栽培は、土耕栽培に比べて育てる植物へ直接栄養を与えられる、成長スピードが速い、除草が必要でない、虫がつきにくいなどのメリットがある。そのような中で、土耕栽培にこだわり、12年かけて理想のトマトづくりに力を注いできた杉山氏を動かすものは何なのか。
杉山氏「大学卒業後、IT関連企業で営業職を経験したのち、30代前半に親戚のバラ農家の手伝いをしていました。バラ農園は廃業したのですが、ちょうどその頃に野菜くらぶさんから声をかけてもらってトマト栽培をしてみることにしたのです。当時、トマトが不作で高騰、その打開策として周年供給を目指すモスと、冬の産地拡大を目指す野菜くらぶの理念が一致したことでトマトづくりのプロジェクトが始まりました。モスファーム・サングレイスのトマトハウスは、モスと野菜くらぶ、そして国からの支援があってここまで持ってくることが出来たと思います。また、モスが『店舗で使用する生鮮野菜の安定調達』の他にも『農家の高齢化と後継者不足の解決』『耕作放棄地の有効活用』の目的で農業支援の強化をするタイミングでもありました。そこでトマト栽培の研究を行いながら、バラ栽培のノウハウを生かして、土を使うプランタータイプの隔離土耕栽培を導入しました。プランターの土は、収穫した後のトマトの樹を堆肥として再利用するなど循環ができるため、環境配慮に適しているのです。また、モスバーガーを食べたことがある方は気づいていらっしゃると思いますが、バーガーに挟まれたトマトは実がしっかりしていてとてもジューシーで風味が良いと思います。そのトマトの風味は、『土』からしか生まれないと私は考えています」
堆肥、有機液体肥料、化学肥料などを独自に配合し土づくりの研究を重ねた結果、土に含まれる微生物の多様性・活性度など専門機関からも高い評価を得ているという。

(※1)内部環境がコントールされた空間で植物を計画的に生産するシステム。一般的に、培地を用いない水耕栽培を利用し、自然光、人工光を光源として植物を生育させる


プロファームコントローラーの全体図(出展:デンソー社ホームページ)


「人間が得意でないこと」IT導入によって収穫量の安定化をはかる

しかし、12年の間には紆余曲折があったと杉山氏は語る。安定的に美味しいトマトを出荷するためのノウハウを、ITの活用によって最大限生かすことに成功する。
杉山氏「栽培を始めてから5年ぐらいは、年によって収穫量の波が非常にありました。また、3年程前にトマトにつくウイルスによって大きな打撃を受け、それを回避するためにITでハウス室内環境を制御できる『プロファーム(デンソー製のシステム)』を導入しました。ハウス内の温度を緩やかにコントロールすることで、結露になりにくく、虫や病気の害を受けにくい。人間の感覚だけでは出来ないことをシステムが解決してくれることで、収穫量の安定化をはかれるのです。ただし、いきなりITを導入しても栽培ノウハウがないと、使いこなすのは難しいと思います。それまでの試行錯誤があったからこそ、生かせていると思いますね」
現在、静岡農場と同様に群馬の農場のITハウスでもトマト栽培を行っている。ITを導入し、土にもこだわった農業で安定供給に導くスタイルは、その他の土地でも更に生かせるのではないか。
杉山氏「現在、平均で300坪あたり年間20トン以上の収穫量があります。両農場のハウス全体としては約500トンの収穫量になり、モスへはその約2割のLサイズ100トン程度を出荷しています。そして、他の場所で同様の栽培を行う場合のポイントは、静岡農場や群馬農場と『ノウハウを共有する』ことであり、そうすることで安定したトマト栽培へ、速く行き着けるように思います」




編集部の視点

今回取材した杉山氏は、自身の経験を生かして一つの農業のあり方を見出した。それは、IT関連企業で得た「人とテクノロジー」の出来ることのすみ分け、またバラ栽培のノウハウをトマト栽培に生かしたこと。BTL前号から今号にかけて生産イノベーターに共通することは、決して最初から農業のプロではないということだ。モスのレタスとトマトが何故、みずみずしくて美味しいのか?そのひとつの答えとして、日頃から顧客ニーズから背くことなく、より「美味しい」の高みを目指す生産イノベーターと、それらの取り組みを本気で支援する企業があるからではないだろうか。


生産イノベーター
株式会社モスファーム・サングレイス 杉山健一氏
大学卒業後、IT関連会社で営業職を経験。その後、親戚のバラ農家に就農。12年前にモスファーム・サングレイスを設立し、土にこだわったプランターでトマト栽培を研究。現在、年間500トンの収穫量になる。