クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.31
TIEUP
2018.01.15

翼を作ろう – 飛行機と翼の関係 –


2020年、小学校ではプログラミング教育が必修化される。そこで注目されているのが「STEM(ステム)」。「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字をとった新しい教育である。そして今回、「STEM」にART(芸術)を加え、「STEAM」として開始することになったJALの取り組みに着目。   長距離の国際線に使用される777-300ERは、全長74メートル、重さ340トン。この大きな 機体が空を飛べる理由を説明するには、大人でも一定の知識が必要である。もし、子供たちが この理由に触れ、不思議を解明出来たなら?子供たちの未来は、もっと大きく拓けるものになるのではないだろうか。JALは、次世代育成プログラム「空育®」の一つとして、「JAL STEAM SCHOOL」シーズン1「翼を作ろう-飛行機と翼の関係-」を開始する。今回は、「JAL STEAM SCHOOL」への想い、そして受講風景、また開発背景へ迫る。

第1回目「JAL STEAM SCHOOL」開講
2017年11月25日(土)JAL メンテナンスセンターにて第一回目を開催。小学生を対象にWEBで募集したところ、全国から230名以上の応募があった。当日は、抽選で当選した14名が来場。会場は、初めての開催による緊張感とともに期待感に包まれる。16時、定刻通りにプログラムは開講。日本航空代表取締役専務執行役員 大川順子氏の挨拶から始まる。
大川氏「JAL STEAM SCHOOLでは、『あんなに大きな飛行機がどうして空を飛べるのか?』についての不思議を解明します。自分で飛行機をデザインして、バーチャルで飛ばしてみる。今日の授業を受けて、飛行機の仕事をしたい、研究したいなど、夢が広がると嬉しいです。次世代育成をテーマに始めた空育では、子供たちが未来に向けて、希望やワクワク感をもってもらうために活動を行っています。『STEAM』とは理数教育に創造的な要素を加えた先進的な教育で、世界的に注目されています。今日の授業を通じて、新しい発見、更なる学びを通じて未来を考えるきっかけになれば良いなと考えています」


「飛行機作り」の体験を通して飛行機の仕組みを学ぶ
授業の講師を務めるのは、パイロット歴29年のボーイング777型機機長の靍谷氏と、JALで整備、技術部門を中心に35年の経験をもつ阿部氏。まず最初に飛行機に働く4つの力である「推力」「揚力」「抗力」「重力」、また主翼の面積と揚力の関係についての説明、さらに、翼面には揚力や抗力、翼副には安定性など翼の形状に関わる様々な数値の変化についての解説があった。その後、この複雑な原理を学ぶため、本カリキュラム用に開発された「飛行機作り」の教材(大小の胴体、胴体の翼を取り付ける角度を変えられる3つのパーツ、そして翼の形状を変えられるパーツ)が配布された。

「離陸・速度・安全性を解析するアプリ」
これらのパーツを使い、実際に組み立てた飛行機を格納庫型のスキャナーにセットすると、内部に設置されたアプリが機体の形を読み取り、機体・飛行速度・安定性の3つのシーンを解析する。子供たちはこの教材を使用し3回の実験を繰り返す。1回目と2回目では現実には見られない翼を作り、翼面積や角度がどのように飛行機の性能に影響するのかを確認する。そして3回目に、それまで2回の実験で発見した仕組みや法則を   活かして「自分の飛行機」を作るのだ。


アプリの開発秘話
今回の企画からアプリ開発に携わったエアーコード ディレクター佐々木康貴氏へ、これまでにない全く新しいものを作るというところで、一番苦労した点について話を聞いた。
佐々木氏「2時間という限られた授業時間の中で、小学生が理解を深められるシミュレーションシステムを作るために、どこまで詳細な計算式を入れ込むかについてかなり悩みました。実は、一般的に飛んでいる飛行機は、飛行用途に基づき且つビジネスとして成り立つための最適解で考えられたものです。例えば、戦闘機と民間機では用途や果たす役割が違うように、飛行機が飛ぶための答えは一つではなく、民間機として飛ぶために、あくまでもベストな結果が今の仕組みとなっているのです。この授業において答えの数は、子供たちの発想の数だけあります。実験から自分なりの答えを導き出すためには、シミュレーションの計算が難しすぎても簡単すぎてもダメで、その辺りの調整が非常に難しかったです」


アート(芸術)とは「人間が手を加えたもの」
授業の最後に靍谷氏より、参加者たちに向けて印象的なメッセージが述べられた。
靍谷氏「日本語ではアートを『美術』や『芸術』と訳します。ところが、イギリスの由緒ある辞書では、アートの一番目の訳は『自然の対極として人間が手を加えたもの』と書かれています。例えば、人工知能(Artificial Intelligence)にもアートという言葉が入っているでしょう。『人工の』という意味で人の手が加わっているからアート。人間が関与しているということが大きいのです。世の中には何億円もの価値がつくアートがありますが、その理由のひとつはきっと、人間の感動というものを人に伝えられることなのではないかと思っています。皆さんが生活するなかで感じる楽しいこと、嫌なこと、怖いことを表現出来るのは人間だけ。だから皆さんの心が動いたりすることを、恥ずかしいからとか他の人と違うからという理由で我慢する必要はありません。『自分はこれが良いと思う』『自分はこれがしたい』という気持ちを大事にしましょう。そして他の人のそういう気持ちを尊重しましょう。それを表現できるようになる時、それがきっとアートになるのです」


編集部の視点
「JAL STEAM SCHOOL」は、約1年間の準備期間を経て開講された。「子供たちに新たな発見を与え、学びの意欲が向上」できるための施策として、JALの次世代人材育成、社会の進歩発展に貢献することへの本気度、強い想いがうかがえる。カリキュラムは2時間という長めの受講時間、そして大学生が習得するような高度な内容であるにも関わらず、小学生たちの真剣な眼差しと集中力は最後まで途切れることはなかった。本カリキュラムを通して、子供たちの高いポテンシャルを感じることができたと同時に、情報化社会における新たな教育の一歩を垣間見ることが出来た。
最後に靍谷氏が子供たちの意見を尊重し述べていた、希望を後押しする言葉は、まさにJAL空育の醍醐味である、飛行機を通じて「自分」の未来を考えるきっかけを子供たちに与えたのではないだろうか。