クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.32
TIEUP
2018.02.16

コミュニケーションのきっかけを生み出すクリエイティビティ

「お客さまとの繋がりをこれまで以上に大切にしたい」という想いから、JAL国内線ではあるプロジェクトが始まった。それは、客室乗務員が自身にゆかりのある都道府県のバッジを着用し、乗客にその都道府県のシールをプレゼントするというものだ。2016年7月から2017年6月末まで「千社札シール」、2017年10月からは「JAL TODOFUKEN SEAL」が配布されており、乗客の密かな楽しみとなっている。このプロジェクトがどのような経緯で生まれたのか。日本航空客室品質企画部 アシスタントマネージャー西田氏とリードキャビンアテンダントの松尾氏に話を伺った。



会話のきっかけをつくる千社札
2017年度のJCSI(日本版顧客満足度指数)の調査において、JALは国際航空部門にて顧客満足度1位を獲得している。国際線では昨年度から1位を獲得している一方で、国内長距離交通部門の順位は伸び悩んでいる状況であった。国内線での満足度引き上げのため、施策の一つとして始まったのが千社札シールだ。
西田氏「もともとご満足いただいているお客さまはどういった方なのかと考えた時に、空港や客室の職員と会話を交わすことで繋がりをもつことができたお客さまに評価をしていただけているのではないかと気づきました。しかし国内線はフライト時間が短いため、会話が生まれにくい。すぐに終わってしまうような会話や逆にあまり長くなるような会話ではなく、丁度良い話題はなにかと考えた時に、ご当地に関する話をきっかけにできれば良いのではないかということで纏まりました。そこで客室乗務員が自分のゆかりのある土地のバッジをつけることで、会話のきっかけを創ることにしました」
バッジからどのような経緯で千社札シールを配ることになったのか。
西田氏「バッジをきっかけに会話ができれば、弊社のヒューマンサービスをお客さまの旅の思い出の一部として記憶に残していただけると考えましたが、記憶だけでなく、形に残せるものはないだろうかということで、バッジと同様に土地をデザインしたシールもお渡ししようということになりました。シールデザインの『日本航空』と書いてある部分には、もともと既存のJALのロゴを入れたものを考えていたのですが、それでは今までのグッズと変わらない。そこで千社札のデザインにすることで、インパクトがあるものになるのではないかという意見がでました。しかし社名の印字は社内規定でフォントや字体が決められており、規定どおりにデザインするとインパクトが感じられませんでした。そこで千社札の字体でやらせてほしいと社内で調整を重ね、構想から半年以上かけ、ようやく千社札シールが誕生しました」


デザインが一新されたJAL TODOFUKEN SEAL
好評だった千社札シールの配布は2017年6月末に終了し、2017年の10月から第2弾のJAL TODOFUKEN SEALの配布が開始された。デザインが一新されたが、それはどういった理由からなのか。
西田氏「たくさんのお客さまが千社札シールを集めてくださるようになりましたが、本来の目的である『お客さまとの会話のきっかけ』のツールとしてはまだ改善の余地があると考えておりました。そこでもっと具体的にお客さまとご当地の話が弾むようなものに改良しようということで、コンセプトを練り直しました。各都道府県出身の客室乗務員が推薦する名所を、デザインし、そのイラストをきっかけに話がはずむようにしました」

日本航空 客室品質企画部 リードキャビンアテンダント 松尾氏

コミュニケーションがもたらす満足度の変化
千社札シールやJAL TODOFUKEN SEALといったツールがあることで、乗客とのコミュニケーションはどのように変化していったのか。
松尾氏「千社札シールをきっかけにお客さまから話しかけてくださることが増えました。そこから会話が広がっていくのは私たち乗務員もとても楽しかったです。千社札シールを集めることを搭乗時のささやかな楽しみとしてくださり、これまではあくまで移動手段に過ぎなかったご移動の時間にちょっとした付加価値を感じていただけたのかもしれないと感じています。こういったツールがあることで、お互いに話しかけやすい雰囲気が生まれ、国内線の和やかな雰囲気づくりにつながったと思います」

シールの折り紙ケース:折り紙が得意な客室乗務員が、「このように提供したらより喜ばれるのではないか」と考えたことが始めたきっかけ。

編集部の視点
客室乗務員がいつも心がけているというスポット・カンバセーション(短い会話)。どんなビジネスの場面でもこれが必要となることは多いが、会話のきっかけをつくることはなかなか難しい。シールというコミュニケーションツールを使うことで、乗客と楽しく接点を持つことができ、そこから生まれる会話により商品・サービスへの印象、満足度が変わってくるのだろう。また、シールの人気の秘密には、「ハマる」心理を上手く取り入れた仕掛けがあるからではないか。「レアな都道府県」や「期間限定」という「希少性の価値」にファンは心を掴まれ、また集めることで達成感を味わうことができる。もしかしたら、昆虫採集の楽しい記憶が蘇るのかもしれない。搭乗のワクワク感が増すこの取り組みは、こだわりのつまったクリエイティブなアイデアだ。