クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
イノベーションを生み出すには、行動を起こすための企業文化や風土が整っていることも重要だ。日本航空では、社内で自由に発想を出し合い新しい価値創造につなげていく取り組みの一つとしてW-PIT (Wakuwaku-Platform Innovation Team)が生まれた。この取り組みを推進する日本航空の松崎氏と服部氏に話を伺った。

ワクワクで新たな体験価値を創出する
W- PITの目的は、イノベーションを継続的に生むイケてる会社づくり。そのためには、社員が自律的に行動する企業文化を形成することが必要。そこで松崎氏は社外の視点を取り入れ、社内外に対し共に面白い体験価値を創造することを考えた。この活動は社内だけでなく、あえて外に出すことが重要なポイントだという。
松崎氏「社外に進出して活動を行うことで、リアルな声として反響が社内に戻ってくる。それを受け、『私もやっていいんだ』と思ってくれるJAL社員が増えることで、社内の活性化に繋がっていくと考えました。僕らはこれをブーメラン効果と呼んでいます」
社内だけで行うと、研修のようになってしまったり、他の活動と変わらないものになってしまう。この活動でもう一つ重要なのが「ワクワク体験を提供する」ということだ。
松崎氏「この取り組みのキーワードはワクワクすること。そこで、知的好奇心や趣味趣向が合う人々同士が集まるリアル体験の場を提供しようと考えました。共通の嗜好として最初のテーマに選んだのがクラフトビールでした。自分が好きだというのも一番のきっかけですが、クラフトビールは年々市場のシェアが伸びており、今後需要が拡大していくことが予想されるというのも決め手の一つでした」
そこで松崎氏が声をかけたのが、クラフトビール大手のヤッホーブルーイングだ。
松崎氏「ヤッホーブルーイングの魅力は商品もさることながら、なんといっても人だと思うんです。とにかく社員やファンが喜ぶことをやるというのを常に考えている企業。JAL社員とヤッホーブルーイング社員がアイデアを出し合いコンテンツを考えることでワクワク体験が実現できるのではと思いました」

W- PITから生まれた商品「呑みにマイル」
社内で2回クラフトビールのイベントを実施し、周囲の評価や反響をもとに、カスタマー向けに企画したのが「呑みにマイル」。「呑みにマイル」とは、従来の「旅行先で呑む」ではなく、「呑むためだけにわざわざ飛行機に乗って日帰り旅行する」という目的と手段を逆にした新たな体験型イベントである。
服部氏「飛行機の便数の関係や地方創生に力を入れているという点から第一弾の旅行先は徳島県にしました。徳島ならではの藍染体験で『呑むためのコースター』作りからはじまり、ヤッホーブルーイング社員直伝のビールテイスティングセミナー、阿波踊りなどのコンテンツを用意。また、日帰りにすることで贅沢感を感じられると共に、逆に物足りなさが別の機会にもう一度行ってみようという思いになり地方創生につながります。応募者数は約100名、そのうち抽選で30名がイベントに参加されました」
共通の嗜好をもつファンにとっては、とても魅力的な企画だ。反応をみると、実際の参加者はもちろん、告知をみた人からも多くの反響があった。そして社内でも気づきや変化があったという。
松崎氏「『大企業だから規則が厳しくてできないのではなくて、大企業だからこそできる新しいことに挑戦しよう』という発想になった人や、『自分で新しい価値を生み出さないと、与えられた仕事をやっているだけでは、何もやっていないのと同じだ』と奮い立たされた人もいたようです。ここまでW-PITの活動が広がったのは、周囲の理解と支援があったからです。今後は、より多くの社員を巻き込んでいく仕組みをつくっていきたいと思います」


編集部の視点
心理的安全性のあるチームはイノベーションが生まれやすいといわれる。発言を否定せずに受け入れ、お互いに提案し、新しいことに挑戦する。W- PITの取り組みでは、外部の反響が社内に戻ってくることで、チーム内にそうした環境があることに気づかされる。また、その信頼と熱量が合致する企業同士が手を組むことで新しいイノベーションが生まれるのだろう。