クリエイティブ経済誌 BUSINESS TIMELINE
Vol.40
TIEUP
2018.10.12

日本の「コーヒーイノベーション」が止まらない レジェンド菅野眞博がその理由を語る

日本でのコーヒー文化は1900年代初頭に広がった喫茶店まで遡る。その後、シアトル系のコーヒーチェーンの広がりを経て、サードウェーブの台頭がありスペシャルティコーヒーが浸透した。既にフォースウェーブが囁かれる日本のコーヒー市場は、イノベーションを繰り返しながら拡大を続ける。日本におけるコーヒー文化を創ったと言っても過言ではない(株)ドトールコーヒー常務取締役であり、日本スペシャルティコーヒー協会の理事を務める菅野眞博氏へ、コーヒー文化づくりについて話を伺った。



流れのないものを「作る」ことが味を「創る」こと
世界各地で生産されているコーヒー豆。一つとして同じ味はなく、美味しいと思う感覚も千差万別である。多くの人が美味しいと思えるコーヒーを届けるために菅野氏が試行錯誤して作ってきた文化について、次のように語ってくれた。
菅野氏「コーヒー豆は世界約60カ国で生産されていて、日本ではキリマンジャロ、モカ、ブルーマウンテンなど主に10種類くらいが輸入されています。60カ国の中で生産量ナンバーワンの国はブラジルになります。基本的に、良質なコーヒー豆は標高1000メートル以上の土地でないと採れません。日本で言うと、清里の野辺山あたりの標高です。そして一般的なコーヒーは、商社が生産国で買い付けをしたものを日本へ持ってきて、横浜埠頭などの主要な港の倉庫に置かれます。1990年代までは、○○農園といった札は付いていなかったですし、それを誰が買うのか分からないという状態で在庫されているのが普通でした。当時、まだ『スペシャルティ』と呼ばれるコーヒーが日本にはない時代に、私は美味しいコーヒーを目指して、きちんと選んだコーヒーを輸入し始めたのです。それがどういうことかと言うと、コーヒー豆を『地域指定』や『農園指定』で買うということです。例えば、グアテマラ高地の限られたエリアで採れるコーヒーを買うことは『地域指定』をして買うということになります。さらに、農園まで指定して完全にトレーサビリティが確認できる買い方は『農園指定』と言います。そういった条件をつけて厳選したコーヒーは、当然値段が高くなりますが、ドトールコーヒーでは大量に仕入れることで価格を抑えてお客様に提供しています。納得できるコーヒーを仕入れるために、それまでなかった流れを作るということが、多くのお客様に美味しいと感じていただける、日本での味を創るということだと信じています」


コーヒー生産国の人への、コーヒーの味の伝え方
全国のドトールコーヒーショップの味を決めているのが菅野氏。多くのビジネスパーソンに支持されるコーヒーの味をどのように決めているのだろう。
菅野氏「ドトールコーヒーショップは、全国に1000店舗以上(直営、FC含む)ありますから、原材料はもちろん、味も安定的に供給する必要があります。そこで、ドトール指定のコーヒー豆を現地で作ってもらっています。一番大変だったのは、コーヒー生産国の人がコーヒーの美味しさを知らない、ということでした。どのようなコーヒーを『美味しい』と評価するのかという基準がなかったのです。何をもって美味しいとするかということを現地に伝えるのにとても苦労していましたが、今は、味覚評価制度があるので、ある程度の数値的表現が出来るようになってきました。味はとても繊細なものなので『苦味はどう苦いのか?』『よい酸味なのか。悪い酸味なのか』『指定した味になっているかどうか』など、ワインのテイスティングのように、コーヒーの甘味、酸味、苦味、あとに続く余韻など、品質の善し悪しを『カッピング』という手法で判断しているのです。日本の多くの方に支持してもらえるコーヒーは、日常的に楽しめるコーヒーだと考えていて、例えば『極度に酸っぱいだけ』のように何か一つの個性が強く出過ぎるとダメだと思っています。もともとコーヒーは、渋さや酸味成分を持っていますが、どのように『焙煎』するかによって、酸味と苦味・甘味の調和が取れたコーヒーに仕上げることができるのです。テイスティングする際も、シーンを変えて飲んでみるようにしています。会社でテイスティングをした後も、自宅に帰ってリラックスしているときに更にテイスティングするようにしています。大事なことは、自分の好きが他人の好きとは限らないということを念頭に、様々な判断軸を持っておくことです」


時代はサードウェーブから『フォースウェーブ』へ
コーヒーブームの第三の波として広がった「サードウェーブ」。ただ、次の波はすぐそこまで来ていることを菅野氏は推測する。
菅野氏「『サードウェーブ』は、ワインのような明確な表現をするようなコーヒーとして浸透してきています。それが『スペシャルティコーヒー』の考え方です。そしてサードウェーブという考え方から、最近では『フォースウェーブ』の流れが来つつあるようです。それは『家飲み』とも言われているのですが、ライフスタイルに合った背景を大事にしようという動きです。例えば、料理を作って楽しむような感覚で、コーヒーを自分で淹れるところから楽しむというのもひとつです」
次号では、コーヒーの味を作るうえで重要となる「焙煎」について伺う。

コーヒーブームの潮流
ファーストウェーブ:19世紀後半〜コーヒーが大衆化し大量消費された
セカンドウェーブ:1960年~アメリカのシアトル系チェーン店の広がり
サードウェーブ:1990年〜スペシャルティコーヒーの台頭
フォースウェーブ:2018年〜高品質なコーヒーを自宅で飲む?


スペシャルティコーヒー
味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。
引用:日本スペシャルティコーヒー協会 スペシャルティコーヒーの定義