2017/03/15 | 野村萬斎から学ぶイノベーション力 | 47view

#考察_「ポスト真実」時代の 見極め力

BTL TOKYO編集長 兼 アーキテクト/倉本 麻衣
From the Editor in Chief


今回の取材で印象的だった、野村萬斎の舞台演出における考え方「観客(顧客)へ想像する余地を残す」ということ。人にはそれぞれが持つ世界観があり、その答えは一つではない。つまり、「観客=個客」という捉え方が必要なのである。舞台や映像を作っていく上で、常に新しく驚きや感動を提供することは至極当たり前のこと。観客にいかに主体性を持たせ、その個人の世界感を刺激し、イノベーションしてもらうことが大切ということ、萬斎流のイノベーション力の魅力と言えるだろう。

昨今、芸術やアートの世界では特に「個の想像力」を引き出す取組みが活発化している。ニューヨークのMOMAを中心とした世界的に人気のある美術館や博物館では、学芸員が全ての作品説明をしてしまうのではなく、観覧者たちそれぞれ個人の「美学や芸術学」をファシリテートして想像力を引き出すプログラムが実施されている。

人間は常に選択を迫られる生き物。昨今、必要に迫られて購入する時代も、あらゆる条件を比較し商品を選ぶ時代も終わり、「個」がイメージするものに合致したものを選ぶ時代が到来している。アドテクやデータベースマーケティングを駆使して商品を提案する広告やWEBサイトが乱立する中、第六感的な感情のAIで個客に提案し、結果的に全ての商品がBTO(Build To Order)に近い状態で販売される日が来るのは、そう遠くないかもしれない。第六感的な感情というのは、言い方を変えると「他者の感情や考えを受け取らない」ということである。あくまでも「個」にとって有益な情報なのかどうかということで、SNS時代にある「事実よりも感情」で人が動くということから紐解ける。昨年、オックスフォード英語辞書が2016年を反映した言葉として「ポスト真実(post-truth)」を発表。ポスト真実とは、客観的な事実よりも人の感情へ訴えかけるような言葉や情報などを言う。つまり、事実確認を行う前に他者の感情や気分、考えに影響され、SNSなどで「いいね!が多くついているから正しそう」、「多くのシェアがされているから良いものだろう」と思い込むこと。昨年のアメリカ大統領選でも問題となった、偽ニュースが主要メディアのニュースよりも高いエンゲージメントを獲得した現象からして、SNSを手にしている個人の行動が非常に大きく左右する複雑な時代になった。そういった現実に向き合い次へ進むには、他者のエネルギーに左右されず正しい情報を取捨選択して「個」の見極め力を高めることである。一方、メディアサイドはキュレーション力を鍛え、編集方針にもとづいて紙面構成をするもの。未だAIは、人の感情を察知するのは厳しい。しかし、人の思考力が高まり、その情報をデータへ落とし込むことが出来れば、AIとしてロジック化することは可能になると考えられる。

イノベーションとは、自分自身で想像し選択すること。今後のマーケターに求められる本質は、「個」の思考を刺激し選択を促すロジックを作ること、全てはそこに眠っている。


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野村萬斎

野村萬斎

狂言師。1966年、東京都生まれ。狂言師。人間国宝・野村万作の長男。重要無形文化財総合指定者。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督を務める。国内外の能・狂言公演や舞台・映画出演はもとより、世田谷パブリックシアターでは『まちがいの狂言』など狂言の技法を駆使した舞台や、『国盗人』(「リチャード三世」を翻案)など古典芸能と現代劇の融合を図った舞台を次々と手掛ける。芸術監督就任後初の構成・演出作『敦 ―山月記・名人伝―』では朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。構成・演出・出演を務めた『マクベス』は全国各地で上演を重ねるほか、海外公演(ソウル、ニューヨーク、シビウ、パリ)も果たした。

松井るみ

松井るみ

舞台美術デザイナー。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。劇団四季を経てロンドンへ留学。帰国後、舞台美術家としての活動を開始。2004年『Pacific Overtures』(宮本亜門演出)でブロードウェイデビューし、同作品デザインで第59回トニー賞にノミネート。2007年にはOISTATより“世界の最も名誉ある舞台デザイナー12人”に選出。タン・ドゥン作曲『TEA: A Mirror of Soul』(宮本亜門演出)ではオペラ界においてもアメリカ進出をはたす。さらに、2010年6月には『The Fantasticks』(宮本亜門演出)でロンドンのウェストエンドデビューを飾った。 近年は、上海公演や、AKB48の5大ドームツアー、国立競技場公演のセットデザインを手掛けるなど、活動の幅を広げている。これまでに参加した作品は400以上にのぼり、紀伊國屋演劇賞個人賞、第8回・第19回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞,伊藤熹朔賞、菊田一夫演劇賞他、受賞多数。2015年より東京藝術大学の非常勤講師を勤める。

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